大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)10917号 判決

原告

中島秀明

大矢勝

中谷義公

杉本健一

永富憲司

木村康郎

福井公道

北野敏一

三浦平次

足立眞逸

山本孝一

高松太一

小笠原教夫

日下部健一

柴田進

溝端登

河原邦朋

小田善

大中康典

東久保晃

山根敏彦

小西豊治

日妻正宏

竹内良造

根ヶ山悦也

住尾洋

宿院康夫

棟尾允

兜玉博之

山本勲

奥谷正夫

小林岩夫

松岡英隆

沖田修二

松山明彦

西村春雄

和田昇

古川克

北山力

善利博康

西堀藤次

右原告ら訴訟代理人弁護士

石川元也

(他一〇名)

右訴訟復代理人弁護士

杉本吉史

被告

日本国有鉄道清算事業団

右代表者理事長

西村康雄

右訴訟代理人弁護士

高野裕士

右訴訟代理人

福田一身

(他三名)

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告らに対し、昭和六一年一〇月一六日付けでした別紙処分一覧表処分内容欄記載の各停職処分(以下「本件各処分」という。)が無効であることを確認する。

二  被告は、原告らに対し、別紙請求金額一覧表中請求金額欄記載の金員及びこれに対する原告中島秀明及び同大矢勝については昭和六二年四月二〇日から、同中谷義公、同杉本健一、同永富憲司、同木村康郎、同福井公道、同北野敏一、同三浦平次、同足立眞逸、同山本孝一、同高松太一については同年二月二〇日から、同善利博康については昭和六一年一一月二〇日から、その余の原告らについては昭和六二年一月二〇日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三1  被告は、原告中島秀明に対し、平成二年四月一日以降、毎月二〇日限り金三七万九三八〇円、毎年六月二九日及び一二月一〇日限り各金九三万一七八八円並びに右各金員について、その支払期日の翌日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告大矢勝に対し、平成二年四月一日以降、毎月二〇日限り金三四万八五二〇円、毎年六月二九日及び一二月一〇日限り各金九〇万三五五二円並びに右各金員について、その支払期日の翌日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、国鉄労働組合(以下「国労」という。)の組合員である原告らが、多車種教育受講の際、管理者の業務命令に従わず、勤務時間中、定められた講習室を離れて抗議行動をして、右教育の実施に多大な支障を与えたなどの理由で日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)がした本件各処分が、違法である上、不当労働行為に当たるなどの理由で無効であると主張し、国鉄の権利義務を承継した被告に対し、右処分の無効確認、右処分により失った賃金額及び慰謝料並びにこれに対する遅延損害金の支払いを求め、また、原告中島秀明(以下「原告中島」という。)及び同大矢勝(以下「原告大矢」という。)が、本件各処分が違法、無効であるにもかかわらず、国鉄が、右処分を理由に、西日本旅客鉄道株式会社(以下「JR西日本」という。)の設立委員に提出すべき職員採用候補者名簿(以下「本件名簿」という。)に右原告両名を登載しなかったことは、不当労働行為であり、不法行為に当たり、JR西日本に採用された場合に取得する賃金、一時金相当額の損害を受けたと主張して、右各損害額及びこれに対する遅延損害金の支払を請求する事案である。

一  当事者間に争いのない事実

1  原告らは、昭和六一年七月当時、国鉄の職員であり、別紙(略、以下同じ)処分一覧表所属欄記載のとおり、国鉄大阪鉄道管理局宮原電車区、向日町運転所、高槻電車区(以下「本件三電車区」という。)に勤務し、運転士又は車両検査係の職にあった。

2(一)  国鉄は、昭和六一年六月二四日、原告らに対し、電車(以下「EC」という。)の乗務員及び検修員について、電気機関車(以下「EL」という。)の乗務員及び検修員の職務遂行を可能ならしめるための多車種教育(以下「本件教育」という。)に参加して、受講を命ずる業務命令(以下「本件教育受講を命ずる業務命令」という。)を発し、原告らに対し、同年七月一日から同月二二日まで吹田機関区において実施する本件教育に参加することを命じた。

(二)  原告らは、本件教育実施の際、抗議行動を行い、本件教育は、予定を三日間延長して同月二五日に終了した。原告らは、同月二三日に実施された修了試験に全員合格し、同月二五日、修了証書が交付された。

3  国鉄は、昭和六一年一〇月一六日、大阪鉄道管理局長名で、各電車区運転所長を通じて、原告らに対し、前記の抗議行動などについて、別紙処分一覧表処分内容欄記載のとおり、停職六か月、同四か月、同三か月、同一か月とする本件各処分を行った。

国鉄が本件各処分の処分理由とするところは以下のとおりである。

(一) 原告中島、原告大矢に対する停職六か月の処分理由

「昭和六一年七月、吹田機関区において、多車種教育を実施した際、同月一日から四日までの間及び同月七日、管理者の再三にわたる業務命令に従わず、勤務時間中、定められた講習室を離れたり、受講者の中心となって管理者等に抗議等を行うなど職場秩序を乱したうえ、同教育に多大な支障を与えたことは職員として著しく不都合であった。」

(二) 原告中谷義公(以下「原告中谷」という。)、同杉本健一(以下「原告杉本」という。)、同永富憲司(以下「原告永富」という。)、同木村康郎(以下「原告木村」という。)、同福井公道(以下「原告福井」という。)、同北野敏一(以下「原告北野」という。)、同三浦平次(以下「原告三浦」という。)、同足立眞逸(以下「原告足立」という。)、同山本孝一、同高松太一(以下「原告高松」という。)、に対する停職四か月の処分理由

「昭和六一年七月、吹田機関区において、多車種教育を実施した際、同月一日から四日までの間又は同月一日から四日までの間及び同月七日、管理者の再三にわたる業務命令に従わず、勤務時間中、定められた講習室を離れたり、管理者等に抗議等を行い職場秩序を乱したうえ、同教育に多大な支障を与えたことは職員として著しく不都合であった。」

(三) 原告小笠原教夫(以下「原告小笠原」という。)、同日下部健一(以下「原告日下部」という。)、同柴田進(以下「原告柴田」という。)、原告溝端登(以下「原告溝端」という。)、同河原邦朋(以下「原告河原」という。)、同小田善(以下「原告小田」という。)、同大中康典(以下「原告大中」という。)、同東久保晃(以下「原告東久保」という。)、同山根敏彦(以下「原告山根」という。)、同小西豊治(以下「原告「小西」という。)、同日妻正宏(以下「原告日妻」という。)、同竹内良造(以下「原告竹内」という。)、同根ヶ山悦也(以下「原告根ヶ山」という。)、同住尾洋(以下「原告住尾」という。)、同宿院康夫(以下「(ママ)宿院」という。)、同棟尾允(以下「原告棟尾」という。)、同兜玉博之(以下「原告兜玉」という。)、同山本勲、同奥谷正夫(以下「原告奥谷」という。)、同小林岩夫(以下「原告小林」という。)、同松岡英隆(以下「原告松岡」という。)、同沖田修二(以下「原告沖田」という。)、同松山明彦(以下「原告松山」という。)、同西村春雄(以下「原告西村」という。)、同和田昇(以下「原告和田」という。)、同古川克(以下「原告古川」という。)、同北山力(以下「原告北山」という。)、同西堀藤次(以下「原告西堀」という。)に対する停職三か月の処分理由

「昭和六一年七月、吹田機関区において、多車種教育を実施した際、同月一日から四日までの間、管理者の業務命令に従わず、勤務時間中、定められた講習室を離れていわゆる抗議行動に参加し、職場秩序を乱したうえ、同教育に多大な支障を与えたことは職員として著しく不都合であった。」

(四) 原告善利博康(以下「原告善利」という。)に対する停職一か月の処分理由

「昭和六一年七月、吹田機関区において、多車種教育を実施した際、同月一日及び二日、管理者の業務命令に従わず、勤務時間中、定められた講習室を離れていわゆる抗議行動に参加し、職場秩序を乱したうえ、同教育に多大な支障を与えたことは職員として著しく不都合であった。」

4  原告らは、停職期間中、基本給は三分の一しか支給されず、扶養手当、都市手当、住宅手当が支給されず、賃金上も不利益を受けた。

5(一)  国鉄の分割民営化に伴い国鉄の事業を承継する承継法人の設立委員は、日本国有鉄道改革法(以下「改革法」という。)二三条一項にいう承継法人の職員の採用の基準を「日本国有鉄道在職中の勤務状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること」と定めた。国鉄は、改革法二三条一項に基づき、承継法人の職員となる意思を表明した国鉄職員の中から、承継法人の職員となるべき者を選定し、その者を登載した本件名簿を作成する際、設立委員による右基準を具体化して、「昭和五八年四月一日から昭和六二年三月三一日までの間に停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けたことがないこと」などをその基準として設定した上、右名簿を作成して、これを昭和六二年二月初めころ、設立委員に提出し、右委員は、右名簿登載者全員をJR西日本など各承継法人に採用する旨の通知をした。

(二)  しかし、国鉄は、原告中島、同大矢について、右原告両名が本件各処分を受けたことが、JR西日本の右採用基準に該当しないとして、本件名簿に登載せず、右原告両名は、設立委員から、JR西日本に採用する通知を受けず、同社に採用されなかった。

(三)  被告は、改革法及び日本国有鉄道清算事業団法(以下「事業団法」という。)により昭和六二年四月一日に設立された法人であり、改革法一一条二項所定の承継法人に承継されない国鉄の債務等を承継し、右原告両名との間の雇用契約上の使用者たる地位も承継した。

6  被告は、平成二年三月二〇日、右原告両名に対し、日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法の失効に伴い、被告の就業規則二二条四号の規定により、同年四月一日限り解雇することを予告する旨の解雇予告通知書を交付し、同年三月三一日、被告の就業規則同条同号により解雇する旨の辞令を交付し、同年四月一日付けで解雇し、同日、被告と右原告両名間の雇用契約は終了した。

二  原告らの主張

1(本件教育受講を命ずる業務命令の違法、無効)

本件教育の実施に係る業務命令は、違法無効であるので、右業務命令違反、本件教育実施に対する抗議を理由にしてされた本件各処分は、無効である。

(一)  本件教育は、業務上の必要性、正当性が認められず、これを命ずる業務命令は、使用者の人事権の濫用に当たり、無効である。

(1) 電車区における余剰人員は、後に述べるように、国鉄が、広域異動により、国鉄動力車労働組合(以下「動労」という。)組合員を電車区に転入させるなどして、国労対策のため意図的に作り出したものである上、従来、国鉄と各労働組合との間では、余剰人員を固定化しないため、ローテーション方式で運用しており、大阪鉄道管理局管内において、右方式で運用することが不可能な状態ではなかったのに、余剰人員対策と称して、一方的に転換教育を命じたものである。

(2) 昭和六一年当時、貨物部門の縮小などにより、ELが著しく減少し、ELの要員は、ECの要員以上に過員の状態にあり、この傾向は、将来も継続することが予測されており、新会社の業務の見込みからしても、ELの機関士、検査係への転換教育の必要性は全くなかった。

また、実際、本件教育実施後、EL関係の仕事に就いたのは、日本貨物鉄道株式会社(以下、「貨物会社」という。)に就職し、EL機関士となった四名がいるだけであり、その他の者は、人材活用センターに配置されたり、元の運転士、検査係の職から排除され、ELの機関士、検査係の職に就いていない。

(3) 過去、ECからELへの転換教育が行われた先例もなく、昭和六一年一一月実施のダイヤ改正でもELが減少していた。

(4) ELからECへの転換教育の受講者は、年齢四五歳以下の者を対象として、公募されたのに対し、本件教育の受講者は、職員管理調書に基づき、一方的に指名された上、指名された受講者は、全国鉄動力車労働組合(以下「全動労」という。)の組合員二名を除く全員が国労の組合員であり、宮原電車区で受講を指名された一九名中九名が四六歳を超えるなど異常な人選であった。

(5) 国鉄が、昭和六一年度当初に国労側に説明した教育計画にも、本件教育が含まれていなかった。

(6) 以上によれば、国鉄には、本件教育を実施する業務上の必要性が皆無であったことが明らかである。

(二)  国鉄の就業規則は、転換教育の実施学園を、第一種鉄道学園(関西鉄道学園がこれに当たる。)及び第二種鉄道学園と定めているので(一〇九条、教育機関教育基準規程三三条・別表四)、本件教育を、関西鉄道学園で実施せず、吹田機関区で実施した点で、国鉄就業規則一〇八条、一〇九条、職員管理規程二四条、教育機関教育基準規程三三条・別表四に違反する。

(三)  国鉄が、次のように一方的に本件教育の実施を強行し、本件教育の受講を命ずる業務命令を発したが、右命令は、団体交渉を拒否して行われた上、国鉄と国労との間の協約などに違反する違法なものである。

(1) 国鉄は、国労大阪地方本部に対し、昭和六一年六月二三日午後四時ここ(ママ)ろ「多車種教育の実施について」と題する書面を一方的に交付した。

国労大阪地方本部は、国鉄に対し、団体交渉で交渉すべきであること、転換教育を必要とする基地計画、車両乗務員の運用計画、要員需給を明らかにすること、転換教育を受ける希望者を、募集せず、一方的に指名した理由、関西鉄道学園でなく、吹田機関区で実施する理由、本件教育を本件三電車区に限定した理由をそれぞれ明らかにし、教育修了者の元職場復帰を明らかにすることなどを要求した。これに対し、国鉄は、同月二八日付け文書により、本件教育は、多車種教育の一環として実施した、受講者は、当局が適任と判断して指定した、実施場所は、多車種教育の一環として現場で実施する、需給状況、場所等を勘案して、本件三電車区について計画した、教育修了後、兼務を解除する、など誠意のない回答をした。

国労は、国鉄に対し、団体交渉で協議すべきである旨要求したが、国鉄は、国労の了解がなくとも実施すると通告し、同月二四日、本件三電車区で転換教育の実施の通告を掲示し、現場管理者が、一方的に、指定した者に対し、吹田機関区への兼務発令通知書と教育案内を手渡した。

国労は、同月二六日、国鉄大阪鉄道管理局長に対し、当局の一方的実施に抗議し、団体交渉で協議することを要求すると同時に、国鉄大阪鉄道管理局の将来計画として本件教育が必要か、指定された受講者五六名中五四名が国労組合員であり、多数が国労の役員活動家であることからすると、労働組合の破壊攻撃であり、不当労働行為であるなどの抗議をした。これに対し、同局長は、本件教育は、団交事項ではなく、団体交渉は行わない、本件教育は、業務を行っていく上で必要ではないが、多車種教育として実施する、募集せず、指名するのは当局の権限であるなどと回答した。

他方、本件三電車区においても、国労組合員が、現場長に対し、指定の根拠、教育修了後の元職場復帰ができるかなどを明らかにすべく追求(ママ)したが、明確な回答がなかった。

そこで、国労は、公労委近畿地方調停委員会に対し、緊急斡旋の申請を行ったが、国鉄は、右申請すら拒否して、国労と協議をしなかった。そこで、原告らは、同月三〇日、大阪地方裁判所に対し、吹田機関区への兼務発令の効力停止を求める仮処分を申請した。右申請を踏まえて、国鉄と国労大阪地方本部が交渉した際、国鉄当局は、ようやく、「元職場へ復帰することを確認する。」と口頭で回答したが、右仮処分の取下げがない限り、右回答を文書化することはできないという理不尽な態度を取り、本件教育の実施を強行したものである。

しかし、本件教育は、労働条件の一部をなすものであり、当然団体交渉の対象となる事項に当たるが、国鉄のこのような態度は、国労の団体交渉要求を無視する違法なものである。

(2) 本件教育受講を命ずる業務命令は、国労との協議をせずに、国鉄が強行実施した点で、国鉄と国労との間の労働協約等に違反する違法、無効なものである。

ア 国鉄と国労は、昭和四二年一二月一五日、国鉄の近代化、機械化及び合理化について、「計画内容等について事前協議を行う。」(一条)、右協議の結果による労働条件に関する事項は、「団体交渉を行うこととし、意見の一致を期するようにする。」旨の協定を締結した。

転換教育は、合理化の実施等により職種転換の必要性が生じた場合に実施されてきたものであり、本件教育は、基地統廃合や電車区との一元化などの合理化と分かち難く結びついているので本協定の協議事項に当たる。

イ 国鉄と国労間の昭和四六年二月一九日付け確認事項における「職員の教育・養成の計画概要については事前に説明し、組合側の意見を尊重する。」という条項にも違反する。

ウ 国鉄大阪鉄道管理局長と国労大阪地方本部は、昭和五九年一月二七日、同年二月、昭和六〇年三月九日、合理化実施により、過員が出たときは、過員を特定の個人に固定することをしない旨を約定していたところ、昭和六一年二月二五日、転換教育の実施に伴い配転が生じる場合には、本人の意向を十分尊重し、過員、余剰人員を特定の個人に固定することをしない旨文書で確認した。

本件教育の実施は、同年二月二五日の右文書確認に違反するものである。

エ 従来、ダイヤ改正や車両等の近代化の度に、右各協定及び確認事項に基づき、国鉄は、昭和四四年四月一日付け「運転関係検修作業近代化の実施に伴う転換教育に関する確認事項」、昭和五七年三月三一日付け「運転区所における車両検修業務の部外能力活用範囲の拡大等に伴う労働条件に関する協定」、昭和五九年一月二七日付け「昭和五九年二月ダイヤ改正及び同時期に実施する事項の実施に伴う労働条件に関する協定」の際にも、転換教育について労使間で団体交渉の対象とし、昭和六〇年三月九日付け「昭和六〇年三月ダイヤ改正の実施に伴う労働条件に関する協定」の際にも、労使間で労働条件、配置転換に関する協定などについて協議しており、本件教育の実施は、このような労使慣行にも違反する。

(四)  本件教育受講を命ずる業務命令は、転換教育中に吹田機関区に兼務発令し、教育修了後、兼務を解除するというが、兼務解除後、元の職場に復帰するのか、転勤命令を受けて他の職場へいくのかを明確にしていない点で、原告らの地位を著しく不安定にするものであり、無効である。

2 (本件教育受講を命ずる業務命令の不当労働行為性)

本件教育受講を命ずる業務命令は、以下に述べる経緯からみて、業務上の正当性も必要性もないのに、国労組合員である原告らの雇用不安を煽り、国労の弱体化を図る目的で、国労組合員が多く存在していた本件三電車区の国労組合員である原告らを狙い、受講者を余剰人員として特定し、排除する目的で行われたことが明らかである。また、6で詳述するように、国鉄がその分割民営化のために実施した諸施策は、同時に、これに反対する国労の弱体化を図るものであって、その実施のすべての段階で不当労働行為意思が認められる構造的不当労働行為ともいうべきものであり、その全過程は、不当労働行為の推進過程であるので、このような観点からみても、右施策の一環である右業務命令が不当労働行為に当たることは明らかである。

したがって、右業務命令は、無効であり、右業務命令違反や右業務命令に基づく本件教育の実施について行った原告らの抗議行為などを理由とする本件各処分も無効である。

(一)(1)  原告らは、国労組合員であり、その組合における役職は、別紙処分一覧表所属(国労役職)欄記載のとおりであるところ、6で詳述するように、国鉄は、本件教育実施当時、国労組合員に対して国労に所属していては、自分の雇用が守られないという雇用不安を煽り立て、国労からの脱退と幹部不信を生じさせる諸施策を実施していた。本件教育も、このような施策の一環として、職員管理調書を用いて国労の役員活動家を集中的に指名して、実施した。

(2) 昭和六一年四月当時、国鉄大阪鉄道管理局管内の各労働組合の組織構成比率は、国労が約五五パーセント、動労が約九パーセント、鉄道労働組合(以下「鉄労」という。)が約三〇パーセントであった。

そして、国鉄大阪鉄道管理局では、同年五月から七月まで、広域異動の実施として、九州地区から、第一派七四五名、第二派二八二名が転入した。その多くが、動労に所属するEL機関士であった。そして、本件教育の直前に、ELからECへの転換教育が実施された。その受講者は、公募とされたが、応募した国労組合員は、全く、選定されず、選定された受講者は、動労と鉄労の組合員であり、右教育は、設備の整った関西鉄道学園で実施された。

ECへの転換教育を受けた者は、昭和六一年一一月七名(全員動労組合員)、同年一二月一〇名(同)、昭和六二年三月二五名(動労組合員一九名、鉄労組合員六名)であり、右四二名が宮原電車区に転入した。その結果、同電車区内の動労の組織率が二倍以上に上昇し、同年八月当時の同電車区の運転士の数は、三二五名になり、過員の数も増加することになった。このような事情は、本件三電車区以外の他の電車区でも同様であり、これらの施策は、本件三電車区が国労の拠点となることを防止し、大阪鉄道管理局の中心であったECの運行から、国労組合員を排除して、動労組合員に入れ替える(いわゆる「血の入替え」)目的で実施されたことが明らかである。

このように国労組合員の間で雇用不安が生じ始めた時期に、突然、本件教育が実施されたものである。本件教育は、将来的な展望のないELへの転換教育に国労組合員と全動労組合員を一方的に指名して、多能化を口実に、国労組合員を本務から外し、余剰人員として固定する目的で、労務対策の一環として実施されたものである。

(3) 原告ら本件教育受講者の多くが、本件教育修了後、国鉄時代はもとよりJR西日本移行後も、鉄道本来業務から排除され、観葉植物リース業など鉄道以外の業務に不当配属され、国労組合員は、本件三電車区の鉄道本来業務から排除された。

(4) 国鉄は、昭和六一年六月一日、全国一斉に人材活用センターを設置した。大阪鉄道管理局内では、その配属者九七五名中、国労組合員が七八八名とその八〇・七パーセントを占め、同年八月一日当時の国労組織率四九・九パーセントと対比しても、明らかに国労組合員に対する差別的配属を実施し、具体的業務指示を与えない待機状態に置くなどして、余剰人員として特定化し、右配属者が新会社へ採用されるのが絶望的であるような宣伝が行われた。

(二)  本件教育は、原告らが所属する本件三電車区の国労組織の破壊を狙ったものである。

すなわち、本件三電車区は、大阪鉄道管理局内の旅客通勤客輸送業務の中枢をなしており、右電車区におけるストライキの実施が右運用業務全体を停止し得る立場にあったところ、国労の組織率は、宮原電車区約七〇パーセント、向日町運転所七八パーセント、高槻電車区約八九パーセントであり、右各電車区における分会は、国労大阪地方本部における中核的な存在であり、国労の方針を最も忠実に実践し、ストライキ批准率も八五パーセントを超えていた。

また、国労は、国鉄の分割民営化に反対する方針を採っていたものの、組織内部で微妙な対立が生じ、昭和六一年七月開催の第四九回定期大会(千葉大会)においては、当時の山崎委員長から、反対運動の軌道修正の提案がされ、同年一〇月に開催された第五〇回臨時大会では、山崎執行部の労使共同宣言締結など分割民営化容認の提案がされて、対立が決定的となった。投票の結果、分割民営化に賛成する方針が、一〇一対一八〇で否決され、右方針に賛成した国労幹部と組合員が国労を脱退して、新組合(日本鉄道産業労働組合(以下「鉄産労」という。))を結成するに至ったが、本件三電車区の各分会は、一貫して、国鉄の分割民営化に反対する方針を堅持していた。

そこで、本件教育は、その受講者中、三一名の分会三役、一六名の分会執行委員が指名されており、その実施により役員を分会員から切り離すことで、分会の弱体化を図るとともに対象者を見せしめにすることで、他の組合員の不安感を煽り、分会の組織的動揺を狙ったものである。

(三)  前記のように、本件教育受講を命ずる業務命令は、転換教育中は吹田機関区に兼務発令したが、国鉄当局は、教育修了後、元の職場に復帰できるか否かを説明しないなど不誠実な態度を取って、原告ら国労組合員の国鉄への不信感と雇用不安を煽ったものである。

(四)  本件教育期間中、高槻電車区において国労から運転士七〇名、検修員二〇名の集団脱退があり、国労大阪全体で、昭和六一年四月一日現在一万三五一二名いた組合員が、本件転換教育実施後の七月一〇四〇名、八月七六〇名、九月六六二名の大量脱退が生じた。宮原電車区でも、昭和六一年七月二名、八月八名、九月六名、一〇月一一名、一一月一一名、一二月四名が脱退した。

このように、本件教育後、国労は、本件三電車区で圧倒的少数組織にさせられた上、同年一一月のダイヤ改正の結果、宮原電車区、高槻電車区において、運転業務に従事する運転士中、国労組合員は全くの少数となってしまった(向日町運転所の本線乗務部門が廃止された。)。

そして、JR西日本成立直後における電車運転士の割合は、宮原電車区で、動労一五〇名、鉄労一一三名、国労三九名、高槻電車区で、動労八七名、鉄労一四七名、国労三一名となった。

3 (原告らの抗議の正当性、相当性)

(一)  原告らの行為は、正当な組合活動であり、適法なものである。

すなわち、原告らの行動は、前記のように、本件教育受講を命ずる業務命令が、国労の団体交渉要求、仮処分申請を無視して強行実施された上、不当労働行為に当たる違法無効なものであるので、このような国鉄の不当労働行為や違法な行為から、労働組合と組合員を守るという正当な目的をもって、本件教育受講の際、業務命令の就業規則及び規程上の根拠の説明を求めたものである。その上、右釈明行動から発生した抗議行動も、電車区区長などの説明と対応が十分でなく、国鉄が、多数の監視要員を置いたり、教育環境が不備であったことなどにつき抗議をしたもので、やむなく行ったものである。

しかも、不当労働行為に対する抗議の場合には、正当性の範囲が拡張されると解すべきである上、原告らの抗議行動、求釈明行為は、これを理由とする賃金カット時間が最長八六分、最短五分とされていることからも明らかなように、極めて軽微なものであり、すべて言論によるものであって、方法も正当であり、本件各処分の事由たり得る行為ではない。

さらに、国労大阪地方本部は、本件教育受講を命ずる業務命令には、異議をとどめつつ従う、吹田機関区において、引き続き疑問点について、解明要求行動を行う、現場での釈明要求行動を踏まえながら、再度国労大阪地方本部と国鉄大阪鉄道管理局との間の交渉を進める、現地の指導責任者に人見執行委員を派遣し、他の執行委員も派遣する旨の方針を決めた上、本件教育の実施期間中、同年七月一日には、人見執行委員のほか、地方本部の執行委員四名、梅田、京都、吹田支部の代表、国労本部から、松田中央執行委員、玉田本部電車協議会事務局長を、同月二日には、上村執行委員を、同月三日、四日には、波部執行委員を、それぞれ派遣して、原告らを指導し、同月七日には、本件釈明要求、抗議行動を終わらせるため、受講者全員に、氏名札の着用、教科書の受領印の押捺をして、当局のいう授業を受ける体制をとるよう指導した。

以上のように、原告らの行為は、このような右執行委員らの現地指導に従って行なわれたものである。そして、個々の受講者の釈明要求行動及び抗議行動は、すべて、国労大阪地方本部の執行委員に報告され、指示を仰いで行われており、原告ら下部組合員が独自の判断で行ったものではない。このことは、原告らについて、国労の犠牲者救援規則が適用されたことからも明らかである。

なお、国労大阪地方本部の方針は、前記のように、本件教育について、納得できる説明があるまで受講を拒否したり、絶対に授業を阻止するような硬直したものではなかった。

(二)  そして、本件教育が、同年七月一日から四日まで実施できなかったのは、同月一日は、国鉄側が異常な過剰警備体制を取った上、原告らの釈明要求に対し、不誠実な対応をしたことから、混乱が生じたものであり、同月二日から四日までは、原告らが講習室内に着席しているにもかかわらず、国鉄が、制服、氏名札の着用、教科書の受領印の押捺など本件教育実施と直接関連のないことで、原告らに警告し、原告らに授業を受ける意思がないとして講義を開始しなかったものにすぎない。

しかし、国鉄は、本件教育の受講者らを新会社で不採用とするため、以下のようなささいな行為をとらえて処分すべく準備し、挑発して、本件各処分を強行したものである。

(1) 原告らは、昭和六一年七月一日、国労大阪地方本部役員数名とともに、本件教育における授業開始前に吹田機関区正門前に到着して、検修教室に入り、転換教育の必要性を問い質した。そして、原告中島は、午前に実施されたオリエンテーションの際、原告らを代表して、転換教育の実施に伴う通勤区間変更に伴う手当の問題、食事代の問題などについて当局の説明を求めた。しかし、管理者が同日午後開講式を強行実施しようとしたため、原告らが席を立って、原告らの質問に答えること、開講式の一方的強行実施をしないことを要求した。そして、第六時限目に原告ら全員が検修教室に集合し、そこで、カリキュラムの説明があったが、原告らが授業開始前に自分達が要求した説明を先にして欲しいと要求した。このような経緯で、同日、授業は、実施されなかったが、被告の助役が、原告らに対し、明日以降、乗務員と検修員が分かれて授業を受けること、授業を受けるについては、制服、氏名札を着用することを一方的に通告した。

このように同日の本件教育における授業が実施されなかったのは、国鉄当局側の行動から混乱が生じたものである。すなわち、前記のように、原告らが、同日の受講開始に当たり、本件教育の就業規則上、規程上の根拠の説明を求めるのは当然であったところ、国鉄の管理者である井上吹田機関区長(以下「区長」という。)は、「当局から何も聞いていない。転換教育の受入準備をしろといわれているだけだ」などと述べて具体的な回答をしなかった上、当日、受講場所である吹田機関区に、ヘルメットを着用した管理者数十名と別室に鉄道公安官まで待機させて、原告らを待ち受け、力づくで原告らの要求を抑えたものであり、原告らが、このような不当な対応に抗議したのは、当然であり、混乱の発生は、国鉄に責任がある。

なお、大阪地方本部から派遣された国労の役員は、同日、原告ら組合員に対し、同月二日以降も、現場において、転換教育の必要性についての疑問点ないし労働条件の変更に伴う具体的取扱変更に伴う疑問点について釈明要求をするよう指示し、同日限り、いったん引き上げた。

(2) 同月二日、一時限目、新幹線乗務員二名を除く受講者全員(原告ら全員を含む。)が、検修教室に集合しており、原告らは、私服を着用し、氏名札を着用していなかったが(原告ら以外の四名が、制服と氏名札を着用していた。)、原告らは、講師に対し、開講式が終了していないと述べ、きちんとした開講式を行うことを要求したが、区長が講師を引き上げさせた。

そこで、原告らは、区長のいる部屋の方へ行き、ヘルメットを着用して監視していた管理者に対し、帰るように要求し、田岡良勝(以下「田岡」という。)と現場管理者との間で、監視体制を解くことを合意したので、全員が授業を受けるため教室に戻った。第二時限目以降も、原告らは、制服と氏名札を着用せず、教科書受領印を押捺せず、昼休みに集会を行った。原告らは、第八時限目の始めに区長の下へ行き、教室が暗く、ほこりが積もり、暑く、機関車の出入や道路工事による騒音が激しいので、その改善を申し入れた。これに対し、区長は、「制服を着用するよう注意したにもかかわらず、従わなかった者について現認しているが、明日からの授業は、制服、氏名札を着用せず、教科書の受領印を押捺しない者は授業を受ける意志がないことを確認する」などの内容の警告文を黒板に掲示したが、原告らは、授業を受ける意思がある旨言明した。

原告らのこの日の行動は、教室が、機関車の走行による汽笛、騒音や道路工事による騒音が激しく、講師の声も聞き取れない状態であったため、区長に対し、教育環境の是正について、交渉を求めたにすぎない。

(3) 同月三日、第一時限目、原告らは、黒板に「制服は着用する。氏名札は着けない。教科書の受領印は押さない。」と記載した上、制服を着用したが、氏名札を着用しなかったところ、講師が、それを見て、「氏名札を着用していないので授業を受ける意思がないものとみなします。」と言って退去した。そこで、原告らは、講師に要望を受け入れて欲しいと要求するため、講師室へ行ったが、区長が、教室に戻れと返答するのみであったので、区長に対し、教育環境を整えるよう抗議した。原告らは、第三時限以降、乗務員と検修員に分かれて授業を受ける意思を表明したが、講師は、氏名札の着用と教科書の受領印を押捺しないことを理由に授業を受ける意思がないものとみなすと表明して、退出し、第四、五、七、八時限目も同様の推移であった。この間、第六時限目、局課員、管理者が原告ら以外の六名を両腕を抱えるようにして立ち上がらせ、無理やり別室へ連れていったため、原告らが抗議の声を上げたことがあった。

原告らのこの日の行動は、原告らが、前日の教育環境改善申入れについて、区長が教育環境の整備をしないことに抗議し、釈明を求める意味で検修教室に集合していたのに、区長が、一方的、作為的に授業ボイコットとみなしたため、誠意をもって話し合うことを要求し、抗議をしたものにすぎない。

(4) 同月四日、午前八時五〇分、原告ら全員は、乗務員教室に集合した後、第一時限目、乗務員と検修員に分かれて、所定の教室に入ったが、制服を着用したものの、氏名札を着用せず、教科書の受領印の押捺もしなかったところ、各講師は、原告らに授業を受ける意思がないものとみなすと表明して退出した。

原告中島は、年休の申込みのため、講師室へ行き、他の原告も、年休の申込みをしたが、その際、現場の管理者が来ていたため、監視を止めるように抗議した。その後、第二時限目以降第七時限目までも、同様に講師は、退出した。田岡は、第八時限目、年休の拒否の返答が遅いので、その確認に行き、年休を認めるよう要求したが、第八時限目の終了後、区長が、原告らに対し、同月七日の年休申請を時季変更権の行使を理由に拒否した。

原告らのこの日の行動は、同月七日、前記の仮処分事件の審尋期日が予定されていたため、同期日に出席するため事前に年休を申請し、授業が遅れるなら、休日である土曜日に授業を振り替えても良いと言明したものであるが、国鉄側は、一方的に授業を放棄した上、授業の遅れを理由に時季変更権を行使したものである。

そして、国鉄側は、右年休申請を年休闘争と判断したのであるから、組合の指示に基づく行為について、個人に対し、過酷な処分をすることは許されない。

(5) 同月七日、原告ら全員は、制服、氏名札を着用するとともに教科書の受領印も押捺し、乗務員と検修員に分かれて、所定の教室へ入り、授業を受ける体制を取ったにもかかわらず、管理者側が監視体制を取ったため、監視体制を止めるよう抗議した。これ以後は、順調に授業が進んだ。

このように、原告らが、国鉄担当者の指示どおりの体制を取ったにもかかわらず、国鉄側がヘルメット姿の管理者に監視を続けさせるという異常な対応を取ったため、混乱を招いたものにすぎない。

なお、同月八日、原告らは、休憩時間中に集会を開き、右集会において田岡が発言したことがあるが、発言内容は、被告主張のものではない。

4(処分権の濫用)

本件各処分は、国鉄に与えられた合理的な懲戒権の範囲を超え、著しく重きに失するものであり、処分権の濫用に当たるものとして無効である。

(一)  本件各処分は、原告らの正当な組合活動に対して行われたものである。原告ら各自の行為は、すべて国労大阪地方本部の指導に基づくものであるにもかかわらず、国鉄は、争議指令のないことのみをもって、これを個人的な非違行為であるという誤った評価を下し、指導した組合幹部である上村、野坂執行委員に対しては、戒告処分をしたにすぎないのに、原告ら受講者については、六か月から一か月の停職処分という重い処分をした誤りがある。また、本件各処分は、過去の労働組合の活動に対してされた処分事例と比較しても、前例のない苛酷な処分である。

(1) 昭和五二年秋闘から昭和五三年春闘における、四月一三日集札スト(二時間)、四月一八日施設等スト(半日)、四月二五日から二六日主要線区全面ストップのスト(二日)について、昭和五三年六月三日に通告された一括処分では、全国で一八一名の停職処分を受けた者が出たが、国労大阪地方本部において停職処分を受けたのは、大阪地方本部及び支部の専従役員のみであった。

(2) 昭和五六年一〇月二一日国際反戦デー闘争から昭和五七年春闘までの七回の闘争について昭和五七年九月一七日に通告された一括処分では、全国で二一名が停職処分を受けたが、国労大阪地方本部で停職処分を受けた者は、いずれも、大阪地方本部及び支部の専従役員のみであった。

(3) 国労大阪地方本部の三一分会二七六〇名が参加した休職、派遣、出向の合理化三項目反対の二時間ストに対して、昭和五九年八月一〇日に通告された処分では、大阪地方本部及び支部三役が減給処分を受けたのみで、他は戒告にすぎなかった。

(4) 国労大阪地方本部の一〇六分会五五一五名が参加した国鉄再建管理委員会答申抗議の二九~六〇分ストに対して、昭和六〇年一〇月五日に通告された処分では、減給が最高の処分であった。

(5) なお、昭和五〇年のいわゆるスト権ストでは、連続八日間行われ、その間の国労梅田支部、同宮原電車区分会役員の賃金カットの合計時間は、各三八ないし四八時間であったのに、それに対する処分は、国労大阪地方本部の執行委員が、停職九か月、梅田支部の副委員長が減給一か月一〇分の一であったが、現場指導者の宮原電車区分会副委員長、書記長については戒告処分にすぎない。

(二)  本件各処分は、昭和六一年一〇月という翌年四月に国鉄民営化を控え、国鉄職員が、JR西日本などの承継法人と被告とに選別されることが予想される状況下でされたもので、原告らの身分に著しい不安定を加えるものである上、原告中島及び同大矢については、本件各処分を理由に、本件名簿に登載されないという実質的に解雇に等しい効果が与えられ、他の原告らについては、JR西日本における賃金格付け上不利益が与えられるなど許されないものである。

(三)  本件各処分は、原告らに著しい経済上の不利益を与える。

停職処分を受けると、停職期間中、基本給の三分の一しか支給されず、扶養手当、都市手当、住宅手当のほか、夜勤手当、通勤手当、特勤手当、祝日手当など諸手当が支給されず、職務乗車証はもとより、職員家族割当証なども取り上げられ、原告らの経済上の不利益は、一人当たり月一七万円から二六万円になる。

しかも、停職期間満了後も、昇給、昇格の障害事由となり、退職金や年金算定にも不利になる。

そして、国鉄は、原告らの本件教育当日の抗議行動を理由に勤務扱いをせず、賃金カットをした上で、本件各処分までしたものである。

(四)  本件各処分は、原告らが本件教育の目的、必要性について、国鉄に説明を求め、抗議をしたことに対して行われたものであるが、原告の抗議行動は、やむにやまれぬ正当かつ相当なものであり、その方法も言論による短時間のものにすぎず、本件教育も三日間延長されただけで終了しており、実害は生じていない上、原告ら各自の行為に、処分内容を合理的に説明できるような差異はなく、国鉄が、後に詳述するように、分割民営化の全段階において、国労を嫌悪し、その組織の弱体化を図る不当労働行為意思に基づき諸施策を実行していたことも考慮すれば、処分権の濫用に当たることが明らかである。

5 (本件各処分の不当労働行為性)

本件各処分は、以下に述べる経緯からみて、違法、無効な本件教育受講を命ずる業務命令に対する原告らの正当な組合活動である説明要求行為や抗議活動に対してされたものであり、原告らが国労組合員であることからされたものであるので、不当労働行為に当たることが明らかである。また、6で詳述するように、国鉄がその分割民営化のために実施した諸施策は、同時に、これに反対する国労の弱体化を図るものであり、その実施のすべての段階で不当労働行為意思が認められ、構造的不当労働行為ともいうべきものであり、その全過程は、不当労働行為の推進過程であるので、このような観点からみても、本件各処分が不当労働行為に当たることが明らかである。

(一)  原告らは、いずれも国労の組合員であり、その多くが支部、分会の役員又は熱心な活動家であるところ、本件各処分は、このような原告らの組合活動に対する報復、見せしめとして、巧妙に分会長を外すなどして、副分会長、分会役員、班役員を狙い撃ちしたものであり、受講者五五名中五〇名が処分され、前例のない苛酷な内容で行われた。また、原告らの行為は、停職六か月、四か月、三か月、一か月と区別できるものではなく、その日常的な組合活動に果たした役割の故に重く処分されたものである。

(二)  本件各処分は、昭和六一年一〇月という翌年四月に民営化を控えた時期にされており、JR西日本などの承継法人に採用されないことに対する国労組合員の不安を助長するため、他の組合員への見せしめとして、より苛酷な処分がされたものである。

(三)  本件教育を受講しない者に対する制裁としては、受講の機会を与えず、元の職場へ戻せば足りるはずであったのに、賃金カットの制裁に加えて、本件各処分がされており、その目的が報復であることは明らかである。

(四)  本件各処分の対象とされた行為は、正当な組合活動であるので、これに対する本件各処分は、不当労働行為に当たる。

6 (国鉄の分割民営化の全過程における構造的不当労働行為と本件教育受講を命ずる業務命令及び本件各処分)

国鉄がその分割民営化のために実施した諸施策は、同時に、これに反対する国労の弱体化を図るものであり、その実施のすべての段階で不当労働行為意思が認められ、構造的不当労働行為ともいうべきものであるので、その全過程は、不当労働行為の推進過程であるというべきであり、その諸施策の一環である本件教育受講を命ずる業務命令や、このような不当労働行為意思に基づきされた本件各処分が不当労働行為に当たることは明らかである。

(一)  国鉄の分割民営化は、国民の交通権を侵害するものであるが、国労は、国鉄の民主的改革により、国民の交通権を確立する必要を考え、総合交通政策を樹立することを求めて、国鉄の分割民営化に反対し、活発な組合活動を行った。

(1) 国鉄の分割民営化政策は、その是非が国論を二分した問題であるが、分割民営化反対論は、以下のような根拠があり、その実施後八年の経緯に照らしても、右政策が、誤りであることが明らかとなっており、したがって、右分割民営化に反対するという国労の方針には、合理的な根拠があったものと認められる。

ア 国鉄経営破綻の根本的原因は、政官財癒着の利権構造と国鉄の官僚的経営にあり、公社制度に由来するものではなく、分割民営化は、この根本的原因を正すものではない。

イ 我が国には、自由競争原理によった総合交通体系が形成されず、その見通しもないのに、国鉄の全国ネットを解体したが、これは、国民の交通権を保障する立場からみて、国家の交通政策を放棄するに等しい。

ウ 国鉄の債務三三兆三〇〇〇億円といわれる中には、長期累積債務二二兆円に加えて、青函トンネルなど国家事業として行った事業費用、分割民営化による人員整理費、分割会社の赤字救済基金まで算入されており、これらを除外して考えれば、国鉄は、破産状況にあるとはいえない。また、分割民営化の手法として、会社更正法類似の手法が採られているが、右の手法により発足する承継法人は、その債務の一部を引き継ぐだけで、残りは、国の責任、国民の負担となり、広大な国鉄用地を含め、うま味のあるところは、財界が手に入れる手法として用いられた。

エ 国鉄の貨物部門を旅客部門から分離独立させ、貨物会社を設立することは、国鉄の赤字の大きな原因が貨物部門から生じていることからしても、貨物会社の赤字を増大させることになる。

オ 旅客部門を六分割することは、結局、不採算な北海道、四国、九州、貨物、バスを分離して切り捨て、経営のうま味のある本州の旅客部門に大資本が出費、経営参加して、利益を適当に分配できるようにする手だてにすぎない。

カ 分割民営化の目的とされる人員の合理化は、政府や国鉄当局が貨物や地方交通線の廃止など公共交通機関の生命である国民の利用への奉仕を乱暴に切り捨てることにより、意図的に作り出した余剰人員を削減するものである。

キ 以上のように、国鉄の分割民営化は、一〇〇年余にわたり、国民の租税その他で形成された国有鉄道を財界の私的所有にする計画であるといわざるを得ない。

ク 分割民営化後の八年の経緯をみても、分割民営化が誤りであったことは明らかである。

国鉄の三七兆円にのぼる長期累積債務の解消は、見込みがつかない状態であるばかりか、被告に引き継がれた二五兆円の債務はむしろ増額し、貨物会社を含む本州三社以外の承継法人の株式上場も論外の状況にある。

また、分割民営化後、国鉄の公共交通としての役割は、大幅に後退し、収益性が強調され、安全基準が緩和される方向で見直されたため、事故が増加し、採算性の乏しい会社の運賃値上げも不可避となり、国民の負担増が現実化している。

(2) 国労は、昭和四五年以降、国鉄の民主化と国民の国鉄を目指すことを方針に活動しており、昭和五六年には、「国鉄の民主的再建に関する提言」を発表し、提言の主旨に沿った要求を国鉄に提出しており、国鉄分割民営化に反対したのも、単なる思いつきや場当たり的便宜論ではなく、それが、前記のような問題点を含み、国鉄の経営危機の真の原因を明らかにしないまま、強引に急速に推進されようとしたからである。

(3) 国労は、その綱領において、国民の社会的権利としての交通を積極的に守り、これを確立するために闘うなどの方針を採っているところ、国労が、その立場から、産業政策を持ち、その実現を図るために活動することは、労働組合に固有の権利であり、組合内部の民主的な討議に基づき自主的にされた決定に基づく労働組合の活動を保障することは、民主主義社会の前提条件であり、右方針に反映された組合員個々人の固有の価値観を尊重することにもなる。

(二)  国鉄は、分割民営化政策を実現する際、これに反対する労働組合に対し、変質を迫り、同調しない労働組合に対しては、これを壊滅又は弱体化することを図っており、分割民営化の諸施策の過程で、右不当労働行為の目的を達成するための施策を、予め計画的体系的に組み込んでおり、いわば、構造的不当労働行為を行っている。

したがって、国鉄の分割民営化の過程における国鉄の施策が一見合理性を有する場合であっても、その具体的事実関係や背景的事実関係に踏み込んで、その施策の運用の実相が労働組合対策であり、全体的な不当労働行為意思の発現に当たるか否かまで考察することが必要であり、全国で統一的に存在していた不当労働行為意思が個別具体的事案で、どのように貫かれていたかを考察することが必要である。

(1) 国鉄は、昭和五七年三月から、昭和六〇年九月までの間、職場規律の総点検及び是正と称して、八次にわたり、職場総点検を実施した。その際、是正されるべきとした事項中には、労働条件の一部となり既得権として正当に保障されるべきものまで含まれていた上、その対象が、次第に職場慣行の点検から、労働組合の権利や活動についての規制を強化する傾向を強めていった。

また、昭和五七年の年頭から、報道各紙は、国鉄労働者の勤務怠慢ぶりについて誇張したキャンペーンを展開し、国鉄の分割民営化の論議は、冷静な国鉄再建論議ではなく、国鉄の財政破綻が、あたかも、国鉄労働者の怠慢にあるかのようなすり替えを行うことで始められた。

(2) 国鉄は、複数組合が併存する状況において、顕著な組合間差別を行った。

ア 国鉄は、鉄労、動労、全国鉄施設労働組合(以下「全施労」という。)との間では、雇用安定協定を再締結し、昭和六一年一月一三日、右三労働組合との間で、労使共同宣言を締結し、「国鉄改革がなし遂げられるまでの間、以下の項目について、一致協力して取り組む事を宣言する」「諸法規の遵守」(公労法で禁止されている争議権の行使を含む)、「リボン・ワッペンの不着用」「派遣制度を積極的に推進する」などを宣言した。

そして、国鉄は、同年八月二七日、右三労働組合が結成した国鉄改革労働組合協議会(以下「改革労協」という。)との間で、新会社への移行後も争議行為を自粛することなどを盛り込んだ第二次労使共同宣言を締結した。

これに対し、国鉄は、国労との間の雇用安定協定が、昭和六〇年一一月三〇日をもって失効した後、再締結を拒否した。

国鉄は、国労に対し、その方針と相容れない労使共同宣言の締結を条件に持ち出して、雇用安定協定の締結を拒否したものであり、国鉄の右行為は、余剰人員問題が深刻化している状況の下で、国労組合員に雇用不安を与え、国労組織の動揺と弱体化を図ったもので、明白な不当労働行為に当たる。

イ 国鉄は、国労、動労が昭和五〇年に実施した、いわゆるスト権ストについて、両労働組合を被告として、二〇二億四二八七万円の支払を求める損害賠償請求訴訟を提起したが、昭和六一年九月、動労と前記第二次労使共同宣言を締結した翌日に、動労に対する訴えのみを取り下げるとともに、国労に対しても、動労と同様の立場に立つことを要求した。

国鉄の右行為は、金銭の力で労働組合の路線転換を迫るものに等しく、卑劣極まる不公正な取引であり、複数併存組合間における組合差別であるとも(ママ)に、国労の弱体化を意図する支配介入行為に当たる。

(3) 国鉄は、昭和六一年四月ころから同年七月ころまでの間、国鉄職員約七万人を対象として、民間企業のための企業人意識を持たせるという名目で、企業人教育を実施し、いわゆる意識改革運動を行った。右運動は、職員に対し、国鉄の分割民営化への賛成を迫り、国家的施策には、有無をいわせず同調させ、強制を迫るという思想、良心の自由を侵害する実質を持ち、国労所属の組合員の脱退工作であった。

そして、国鉄は、昭和六〇年一二月、国鉄職員全員を対象とし、希望進路の回答を求めるアンケートを実施した。国労は、国鉄改革に係る法律が未成立の段階で、分割民営化を既定の前提としてアンケートを行うことに反対し、アンケート内容の変更を求めたが、国鉄は、その実施を強行したものであり、アンケート調査用紙の受領拒否者を厳重にチェックし、白紙回答者について、白紙回答が組合の指導によるものかなど個別に問責を行い、その中で、国労にいれば、新会社に残れないなどと恫喝した。

また、企業人教育の人選からは、国労組合員が外される場合が多く、右教育の際、労使共同宣言の唱和をするなど、労使共同宣言を実行できる職員の養成が図られた。右教育を受けた者は、職場に戻って学んだことを実践することが求められ、いわゆるインフオーマルグループの結成が義務づけられた。右グループは、管理者が主導し、分割民営化を推進するため、国鉄当局に忠誠を誓う実行グループとされ、分割民営化に反対する国労を敵視し、「国労にいては、新会社に残れない」という雰囲気を形成する役割を果たした。

(4) 国鉄は、昭和六一年四月、全国一斉に職員管理調書を作成し、これを用いて、人材活用センターへの配置者や本件教育の受講者に国労組合員を選別するなど不当労働行為の重要な柱とした。

ア 職員管理調書の作成と使用の目的は、新会社へ移行させる職員と余剰人員として被告に残す職員を選別することにあり、このことは、右調書が、他の人事調書と異なり、新会社に引き継がれなかったことからも明らかである。

右調書には、職員の意識、意欲を評価して記載するとされ、これは、当時、政府が強調していた国鉄の赤字の現状や分割民営化の必要性についての職員の認識の有無程度を評価しようとするものであり、実質的には、国鉄の分割民営化に賛成する組合に所属する職員と、これに反対する国労に所属する組合員を成績評価の名目で差別しようとするものであった。

イ 右調書による調査対象期間は、昭和五八年四月一日から昭和六一年三月三一日までとされたが、動労が、国鉄の分割民営化反対方針を転換して、これに賛成し、各種闘争を放棄したのが、昭和五八年であることからすれば、右調査期間の選定の目的が、動労組合員の救済という恣意的、差別的なものであったことが明らかである。

ウ 右調書の評定項目は、国鉄の分割民営化に反対する国労の組合員を、これに賛成する他の組合員より、低く評価し、新会社移行時の余剰人員として選別する目的で作られた。

すなわち、右評定項目には、労働処分のように、個人の労働能力や資質と無関係なものを入れているが、これは、昭和五八年以降、国鉄の分割民営化に反対する活動を行い処分を受けてきた国労組合員を不利益に扱うものである。

また、「協調性」「職場の秩序維持」「服装の乱れ」「勤務に対する自覚、責任感」「勤務時間中の組合活動」「現状認識」などの評定項目は、国鉄の分割民営化に反対するリボン、ワッペン闘争や時間外の組合活動の開催などにより、国労組合員が不利益に評価される項目である上、一つの評定項目における低い評価が他の項目について二重、三重に低い評価をもたらす結果となる。

エ 右調書の実際の評定においても、釧路運転所、松山駅において、国鉄の分割民営化に反対する国労の組合員が、現状認識に欠けるなどの理由で差別的に低く評価されたり、国労を脱退した者が、現状認識が良くなったなどの理由で評価が高く修正されるなどの差別的な実態が明らかになっており、大阪鉄道管理局においても、同様に差別的評定と差別的運用が行われたことが推認される。

オ 右調書に基づく選別が行われた結果、新会社への採用率は、北海道においては、国労組合員が四四パーセントであったにもかかわらず、鉄道労連(旧鉄労、旧動労など)の組合員では、九九パーセントを超え、九州においては、国労組合員の採用率は、平均で四三・一パーセントであるのに対し、鉄労などでは九九・九ないし一〇〇パーセントである。

本州の各新会社では、希望者が採用枠を割ったため、原告大矢、同中島など一部国労組合員が採用差別を受けたに留まったが、新会社に採用後も、右調書に基づいて、国労組合員を、鉄道本来の業務から外す配転差別が行われ、大阪鉄道管理局管内では、鉄道本来業務以外の業務に配転された国労組合員の数は、七八五名であり、全体の七二・七パーセントを占める。

右調書は、人材活用センターへの配属者の選定資料としても用いられ、本件教育受講者も、右調書の勤務成績等を総合考慮して選定された。

(5) 国鉄の最高幹部は、国労を嫌悪する意思を再三表明している。

ア 杉浦国鉄総裁は、昭和六〇年八月の鉄労の定期大会、昭和六一年七月の鉄労及び動労の定期大会に出席し、両組合の国鉄改革への協力に感謝する発言をした上、同年七月の動労の定期大会では、「国鉄の中にも体は大きいが非常に対応の遅い組合があります」と発言して、国労を批判し、同月の鉄労の大会においては、同労働組合に対し、「絶賛称賛したい。ほめてもほめすぎることはない」「立派な職員が新会社に行けるようにしたい」と発言した。

また、国会における答弁においても、「労使共同宣言に調印できない、あるいは、することに反対である組合に対しましては、私共は、信頼を持てません。したがって、雇用安定協約を結ぶことができないということでございます」と述べ、国労に対する嫌悪の意思を表明した。

右発言は、国労と対立関係にある鉄労や動労などの大会において、国労に対する敵対心を煽る反面、鉄労や動労に対して、協力関係を深めようとするものであり、複数の労働組合が併存する状態で、一方の労働組合に加担するものとして許されない行為である。しかも、右発言の時期は、国会での分割、民営化法案の審議の直前であり、いかに国鉄改革の必要性が背後にあったとしても、特定の労働組合のみを敵視し、雇用不安を煽り、反対意見を押さえつけ、協力関係のみを求めるという姿勢を示すもので、容認できない。

イ 葛西国鉄本社職員局次長(現JR東海副社長)は、昭和六一年五月二一日、動労の東京地方本部各支部三役会議に招かれたが、その席上「分割民営を遅らせれば、自然に展望が開けるという人達がいる。国労の山崎委員長です。」「レーガンがカダフィに一撃を加えました。あれで、国際世論は、しばらく動きがとれなくなりました。私は、これから、山崎の腹をぶん殴ってやろうと思っています。皆を不幸にし、道連れにされないようにやっていかなければならないと思うんでありますが、不当労働行為をやれば、法律で禁止されていますので、私は、不当労働行為をやらないという時点で、つまりやらないというのはうまくやるということでありまして」などと発言した。

この発言は、広域異動者の配属が開始される時期にされたもので、動労の幹部が、組織温存策から、組合活動家を中心に広域異動に積極的に応ずる運動をしていたことを受けて、動労幹部と国鉄中枢幹部との間の太いパイプのあることを強調し、動労組合員の雇用が保障されるとする安心感を組合員に与えるという意図のあったことが明白である。

ウ 以上のほかにも、岡田国鉄本社機械課長の「良い子、悪い子に職場を二分する」旨を記載したいわゆる意識革命に関する指示文書が発せられたり、宮林次長が、東京建築工事局の次長、課長会議で「今のところ、まだ、一〇〇人やっと欠けるという(国労からの)脱退者ということで是非過半数まで持っていきたい」という発言をした。

エ これらの国鉄幹部の発言を受けて、動労や鉄労は、動労や鉄労の組合員の雇用は、保障されるが、国労組合員の雇用は保障されないなどの記載内容のビラを出し、国労組合員の雇用不安を煽り、国鉄の各現業機関の区長、助役クラスの管理者が、直接、国労脱退工作を行った。

(6) 国労は、昭和六一年四月当時、組合員数一六万五四〇三名、組織率六八・六パーセントと国鉄最大の労働組合であったが、以上の国鉄の諸施策の結果、昭和六二年二月一日までに一〇万人以上が脱退し、組合員数六万二一六名、組織率二七・三パーセントと激減した。

(三)  国鉄は、分割民営化の実施過程で、膨大な余剰人員を作り出した上、これを背景に、国労組合員を鉄道本来業務から排除し、国労組織を弱体化する不当労働行為を行ったものであり、本件教育も、このような不当労働行為意思の発現といえる。

(1) 国鉄は、昭和五六年五月、昭和六〇年までに職員七万五〇〇〇名を削減し、職員三五万人体制とする旨の経営改善計画を策定し、昭和五七年一一月、昭和五九年二月、昭和六〇年三月の各ダイヤ改正により、大規模な人員削減の合理化を行った結果、国労大阪地方本部の調査では、機関車運転士の必要所要員数二二九八名中四九九名を削減し、一七九九名を必要所要員数とし(二二パーセントの削減)、一〇三九名が過員(余剰人員)となった。

その後、昭和六一年三月と同年一一月の各ダイヤ改正の際、再建管理委員会意見にある職員一八万人体制の実現を目指す合理化が行われ、職員一八万人とする体制が完了した。

(2) 国鉄は、このような余剰人員対策について、国労との間の団体交渉を形骸化させ、事実上、これを拒否する態度を取った。

ア 国鉄は、従来、合理化や賃金に係る事項について、国労、動労、鉄労などの併存組合との間で、同時に並行的に団体交渉を実施し、同時に同一内容で妥結する方式を採っていた。ところが、国鉄は、昭和五七年一一月のダイヤ改正では、動労、鉄労、全施労との間で先に妥結させ、その内容を国労に押しつけるという手法を採用した。

イ 国鉄は、従来、合理化により過員が生じた場合、その取扱い、職名と職務の変更、労働条件の変更については、労働組合と協議し、労使協定に基づき解決していた。ところが、国鉄は、余剰人員の活用は当局の責任において実施する事柄(管理運営事項)であり、活用に関連して、労働条件について具体的な問題が提起されれば、公労法の趣旨にのっとり、団体交渉の対象たり得る事項であれば、交渉するという立場を取り、過員活用について、事実上、団体交渉を拒否した。

ウ 国鉄は、昭和五九年七月、退職制度の見直し、休職制度の改定、拡充、派遣制度の拡充を内容とする余剰人員調整策を提案し、各労働組合に対し、右提案を受け入れなければ、雇用安定協定を破棄すると通告して、団体交渉を打ち切った。国労以外の労働組合は、この恫喝に屈し、国鉄との間で、右提案を内容とする協定を締結したが、国労が応じないと、国労に対する雇用安定協定の破棄を通告した。

国労は、その後、強制、強要にわたらないことを条件に、国鉄の右提案に基づく協定を締結することとし、国鉄との間で、雇用安定協定が締結されることになった。ところが、国鉄は、国労内の一部組織に、いわゆる「三ない運動」があるとして、これを口実に、昭和六〇年一一月三〇日をもって、雇用安定協定を失効させ、その後は、国労が労使共同宣言の締結に応じないことを理由に、雇用安定協定の締結を拒否している。

エ このような国鉄の態度は、労働組合が複数併存する状況の下で、労働協約の締結について差別するものであり、国労を弱体化させる支配介入であり、大量の余剰人員があり、雇用問題が深刻な状況の下で、国労の組織を動揺させる最も有効な手段として行われたものである。

(3) 国鉄は、余剰人員対策を口実として、国労組合員を鉄道本来業務から排除する不当労働行為を行った。

ア 国鉄は、広域異動を実施した上、機関区の業務に就いていた者に転換教育を受けさせた上、電車区へ配転するという方法で、本州の主要な電車職場に動労、鉄労の組合員を送り込んで鉄道本来業務に就かせ、その職場にいた国労組合員を組織的に排除した。

すなわち、昭和六一年五月ころから、北海道、九州から、本州への広域異動を実施したが、その異動者の過半数を動労組合員が占め、異動者中の国労組合員の多くも、異動に応ずる際、国労から脱退した。

そして、国鉄は、右異動の実施後、電気機関車運転士に対し、電車運転士への転換教育(EC転換教育)を実施し、右教育を受けた者を、機関区職場から電車区へ配属するという人事異動を行った。右転換教育の受講者は、動労、鉄労の組合員が優先的に指名され、その結果、電車区に配転された者は、動労、鉄労の組合員であった。

このような多能化教育は、大量の余剰人員という背景の下に行われ、国労以外の組合員の職場を保障する役割を果たす一方、国労組合員の雇用不安を増大させ、国労組合員の比率が高かった営業系統の駅や保線区の職場から、国労組合員を排除する施策として用いられた。

イ 国鉄は、人材活用センターの設置を口実に国労組合員を排除した。

すなわち、国鉄は、昭和六一年七月一日、余剰人員の一括集中管理を必要とするという理由で、全国一〇一〇か所に人材活用センターを設置した。

国鉄による右設置は、従来、過員(余剰人員)を属人化特定化しないという労使間の確認に基づく循環交代方式による過員対策を廃止し、各労働組合に対し、労働協約の締結を求めることなく、一方的に実施するという異常な経緯で行われた。

同センターへの配置者は、国労組合員に差別的に集中し、昭和六一年現在の全国の同センターの配置者一万五二一〇名中、国労八一パーセント、動労一〇パーセント、鉄労五パーセント、全動労二パーセント、その他二パーセントであった。大阪鉄道管理局管内での配置者九七五名中、国労組合員が七八八名(八〇・八パーセント)であり、当時の国労の組織率約五〇パーセントと比較しても、高率であり、国労組合員中では、支部や分会の役員が二六六名(三三・七パーセント)を占めた。

同センターへの配置者は、鉄道本来業務との関連性がないか乏しい業務に従事させられ、大阪においては、具体的な業務指示がされなかったり、環境整備と称して、庭木のせん定、草むしり、清掃などの雑用に従事させられた。

同センターの設置について、各新聞社は、新会社発足に向けての職員の実質的な振り分けが開始されたと報道し、同センターに配置された国労組合員は、深刻な雇用不安に陥った。

このように、国鉄による同センターの設置は、分割民営化を数カ月後に控え、余剰人員の集中管理という名目で、新会社に採用する職員と清算事業団に移行する職員を実質的に選別し、新会社に採用する職員のみで国鉄の業務を行う体制を狙ったものであり、また、分割民営化に反対する国労を敵視し、国労の組合員や役員について、国労組合員が、余剰人員として、同センターに配置され、新会社に採用されず、清算事業団に送られるという見せしめとし、国労組合員の雇用不安を醸成して、国労からの脱退を促進する狙いをもっていた。

ウ 国鉄は、人材活用センターの設置とほぼ同時期に、電気機関車の運転士、検修員の資格取得のための教育(EL転換教育)を実施したが、受講者に選定されたのは、国労組合員であり、右教育を通じて、国労組合員を余剰人員として特定し、鉄道本来業務から排除した。

エ 国鉄のこのような施策は、大阪鉄道管理局管内ばかりでなく、首都圏でも実施された。

(四)(1)  国鉄の分割民営化の目的は、第一に、モータリーゼーションの発達等による国鉄の輸送独占の崩壊と国内交通市場における地位の低下を背景に、財政経営危機に陥り、国家財政の負担にもなりつつあった国鉄を、収益主義に再編し、不採算部門からの撤退と徹底した合理化によって経営体質の減量化、効率化を図ることであり、第二に、国鉄分割民営化に反対する国労の壊滅を図ることであり、国鉄の分割民営化に関連する諸立法も、国労の団体交渉権を無視し、国鉄職員の身分保障を奪い、雇用不安を発生され(ママ)るなど違憲の疑いのある問題の多い法律である。

(2) 国鉄は、前記の経緯からも明らかなように、国労以外に複数の労働組合が併存する状態を利用し、その分割民営化の諸施策の実施のすべての段階において、国労を嫌悪し、その組織の弱体化を図る不当労働行為意思を有して、体系的組織的に不当労働行為を展開していたことが明らかである。

したがって、国鉄の右施策について、改革目的や業務目的が認められるとしても、不当労働行為に当たらないと即断することは許されない。

そして、国鉄がこのような不当労働行為意思をもって、分割民営化の諸施策を実行していた以上、本件教育受講を命ずる業務命令が、不当労働行為意思に基づき発せられたことは明らかであり、このことは、以下の諸事情を総合勘案すれば、一層明白となる。

すなわち、本件教育が、余剰人員の一括管理と人材の活用を趣旨とし、広域異動、人材活用センターの担務指定と同時期に遂行されたこと、受講を命じられた者は、人材活用センターの担務指定を受けた者と同様に過員として特定されたこと、受講者の選別が、職員管理調書による評定結果に基づき行われ、これらについて、国労との間の団体交渉や協議が行われず、一方的に実施されたこと、受講を命じられた者が、すべて国労、全動労の組合員であったこと、教育目的に乏しく、有用性がほとんど皆無であること、広域異動、人材活用センターへの担務指定、本件教育の実施後、それにより影響を受けた職場の人的構成が大きく変化し、動労、鉄労組合員の職場占有率が著しく高まったこと、鉄道本来業務にふさわしくない者として過員とされた者は、新会社への採用が望めないと宣伝され、雇用不安が著しく醸成されたこと、原告らの所属する本件三電車区の国労の組合活動が著しく打撃を受けたこと、昭和六一年七月から月一万人単位の国労脱退者が生じ、国労の組織が著しく弱体化したことを総合勘案すれば、本件教育受講を命ずる業務命令が、不当労働行為意思によるものであることは明らかである。

(3) 本件各処分についても、処分当時、国鉄は、国労を嫌悪する状況にあり、処分決定の際、原告らの行為を評価する際にも、このような国労嫌悪の意思が働いたものと推認されるのであるから、本件各処分が不当労働行為意思に基づきなされたことは明らかであり、このことは以下の諸事情を総合勘案すれば、一層明白となる。

原告らの行為の性質は、不当労働行為である本件教育受講を命ずる業務命令に抗議し、国労組織を防衛し、右命令について、原告らの抱く身分上の不安について釈明を求めるもので、国労大阪地方本部の機関決定された方針に基づき、機関により指示、指導された行為であり、国鉄も組合の行為と認めたものであり、個々の組合員が制裁されるべきものでないこと、国鉄の本件教育に対する態度は、国労との団体交渉や協議もなく、唐突に本件教育を実施した上、受講者の身分について説明不十分と不親切な対応をして、雇用不安を一層増大させたこと、本件教育は、教育活動としては、準備不足、場当たり的であったのに、現認体制や警備体制ばかり万全であり、国労の指示、指導に基づく行動なのにあえて原告ら個々人の行為ととらえて処分に及んでいること、本件三電車区の国労組織は、従来から国鉄大阪鉄道管理局と緊張関係にあり、本件各処分により、本件三電車区の組合員構成が激変し、国労大阪地方本部が弱体化したこと、原告らは、指示された吹田機関区に出勤し、国鉄は、過員の特定と一括管理の目的を達成しており、原告らは、労使交渉の結果に即して行動しており、結局、若干の遅れはあったものの、本件教育の受講を終了し、右遅れが、国鉄大阪鉄道管理局の業務に特段の支障をもたらすものでなかったこと、停職六か月の処分は、その処分内容自体、新会社への採用が拒否される恐れを生じさせ、新会社の採用基準に照らせば、免職処分と同様の不利益を与える上、従来の懲戒事例と比較しても、著しく均衡を欠き、六か月、四か月、三か月の各停職処分の理由とされた行為の間に差異がないこと、国鉄は、本件教育受講を命ずる業務命令の不当労働行為性に対する抗議と抵抗に反発し、報復的に一罰百戒をもくろんで、本件各処分を行ったものであり、処分の過大性からみて、不当労働行為意思の存在を考慮しないと合理的に理解することができないなどに照らせば、本件各処分が不当労働行為に当たることは明らかである。

7 (原告らの本件各処分による損害)

以上のように、本件各処分は、違法無効であるところ、原告らは、本件各処分により、停職期間中の逸失賃金額及び違法な本件各処分により受けた精神的苦痛を慰謝する慰謝料の損害を受けた。原告ら各自の右各損害額は、別紙請求金額一覧表記載のとおりである。

よって、原告らは、被告に対し、本件各処分の無効確認、別紙請求金額一覧表中請求金額欄記載の金員及びこれに対する原告中島及び同大矢については昭和六二年四月二〇日から、同中谷、同杉本、同永富、同木村、同福井、同北野、同三浦、同足立、同山本孝一、同高松については同年二月二〇日から、同善利については昭和六一年一一月二〇日から、その余の原告らについては昭和六二年一月二〇日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

8 (損害賠償請求)

国鉄が、改革法二三条二項に基づき作成する本件名簿に原告中島、同大矢の両名を登載しなかった行為(以下「本件名簿不登載行為」という。)は、不当労働行為であるので、不法行為に当たり、右行為の結果、設立委員が両名をJR西日本に採用せず、両名は、損害を受けたのであるから、国鉄は、右損害を賠償すべき義務を負い、被告は、国鉄の右損害賠償義務を承継した。

(一)  改革法二三条に基づく承継法人の職員採用手続の実際は、設立委員が極めて抽象的な採用基準を作成しただけで、採用者の決定は、すべて国鉄が行い、国鉄の選定した採用者を、設立委員が、そのまま承継法人の職員として採用したものにすぎず、右採用手続の実態は、国鉄によるその職員の承継法人と清算事業団への振り分け作業にすぎない。

そして、国鉄は、前記のように、その分割民営化の全段階において、これに反対する国労の弱体化を図る不当労働行為意思に基づく施策を実行していたが、右職員の採用手続においても、引き続き、国労への差別的労務政策を採っている。

(1) 改革法二三条は、設立委員が、国鉄を通じて、国鉄職員に対し、承継法人の職員の労働条件及び採用基準を提示して職員の募集を行い(同条一項)、国鉄は、これに応じて、国鉄職員に対し、承継法人の職員となることに関する意思の確認をした上、その職員となる意思を表示した者の中から、当該承継法人に係る右採用基準に従って、職員となるべき者を選定し、その名を記載した本件名簿を作成して、設立委員に提出し(同条二項)、本件名簿に記載された国鉄職員のうち、設立委員から採用通知を受けた者で、日本国有鉄道法等が廃止される際現に国鉄の職員である者がJR西日本など承継法人の成立の時に当該承継法人の職員として採用される旨を定める(同条三項)。

(2) 改革法二三条に基づく承継法人の職員採用手続の実際は、以下のとおりである。

ア 昭和六一年一二月四日、各承継法人について一六名の設立委員が、各承継法人毎に二ないし五名の設立委員が任命された。しかし、右委員会は、四回開かれたのみで、共通の設立委員に任命された杉浦喬也国鉄総裁、亀井正夫国鉄再建管理委員会委員長、住田正二同委員会委員など、前記のように、国鉄の分割民営化の諸施策を実行し、これに反対する国労の弱体化を図る構造的不当労働行為を推進した者が、その運営の実権を握り、事務作業も、すべて国鉄が行った。

イ 承継法人の職員数を定める基本計画は、昭和六一年一二月一六日に定められたが(同法一九条二項)、右作業を実際に行ったのも経営計画室など国鉄自身である。

ウ 国鉄は、改革法とその関連法律が成立する前から、その内部で、移行推進委員会、地区経営改革実施準備室を設立し、右委員会の指揮の下に同室を各承継法人毎の設立準備室に発展させ、承継法人の成立を踏まえた指定職の異動を行うなどして承継法人の成立の準備をした。

エ 承継法人の就業規則も実際は、国鉄職員局が作成したものであり、同法二三条二項所定の職員の意思確認書の交付及び回収などの意思確認手続も国鉄が行い、本件名簿の作成も、職員管理調書などに基づき国鉄が行った。

オ 設立委員は、国鉄が作成した本件名簿に登載された者をそのまま承継法人の職員として採用した。

(3) 以上のように、改革法二三条による承継法人の採用手続は、実質的には、国鉄が、その職員の選定手続を行ったものである。国鉄は、前記のように、その分割民営化の全段階において、これに反対する国労の弱体化を図る不当労働行為意思に基づく施策を実行していたが、右職員の採用手続においても、国労への差別的労務政策を承継した。その結果、承継法人の職員となることを希望した国鉄職員のうち採用された者の割合は、北海道では、改革労協組合員が九九・九パーセントであるのに対し、国労組合員は四八・〇パーセントであり、九州では、改革労協組合員が九九・四パーセントであるのに対し、国労組合員は四三・一パーセントにすぎない。

そして、東日本、東海、西日本においては、国労組合員は、そのほとんどが承継法人に採用されたとはいえ、鉄道本来業務から排除されている。

(二)  国鉄による本件名簿不登載行為は、前記のような不当労働行為意思に基づくものである。

(1) 国鉄が、右原告両名を右名簿に登載しなかった理由とする本件各処分は、前記のように、違法無効であるので、右行為が違法であることは明らかである。

(2) 国鉄が、右原告両名の本件名簿不登載の理由であると主張する、停職六か月以上又は二回以上停職処分を受けた者という基準は、客観的な基準とはいえず、国鉄は、右基準を恣意的に運用し、右原告両名の組合活動を理由に右名簿不登載にしたものであり、右不登載行為は不当労働行為に当たる。

ア 本州及び四国において、JRへの採用を希望しながら、停職六か月などの処分を受けたことを理由に採用されなかった者の総数は、七六名である。その所属組合は、国労五八名、鉄労三名、鉄産労三名、千葉動労一二名であって、国労所属者が圧倒的に多く、右国労組合員中三四名は、地方労働委員会において、新会社における不採用が不当労働行為に当たるとして、救済命令を受けている。

したがって、右原告両名が右名簿不登載とされたのも、国労組合員としての組合活動が理由である。

イ 国鉄は、停職六か月以上又は二回以上の停職処分を受けた者についても、最近、勤務成績が良くなった者については、例外的に職員採用候補者名簿に登載する方針を採ったことを明らかにしており、停職六か月以上又は二回以上停職処分を受けた者に該当しながら、JR各社に採用された者は、JR東日本九名、JR西日本一名、JR東海一名の計一一名ある。

もっとも、右の内に国労組合員が四名いるが、一名は、右名簿作成時には国労を脱退して鉄労へ加入し、その余の三名は役員歴がない。

また、内八名は、勤務中の同僚との暴力事件、県青少年保護条例違反、在宅準備中又は勤務中の飲酒、社外不祥事、割引証不正使用など破廉恥非常識な行為であり、右原告両名の行為に比較して軽微なものとは到底いえないのに、右名簿に登載された。

以上によれば、右原告両名が本件名簿に登載されなかった理由は、本件各処分が前記の基準に該当したためではなく、右原告両名が、国労大阪地方本部宮原電車区の中心的な活動メンバーであり、国鉄が右原告両名を恣意的に排除しようとしたためである。

ウ 国鉄は、分割民営化直前、国労以外の職員の非違行為の処分を軽くするなど恣意的な処分の運用をしている。例えば、昭和六二年一二月三〇日、住居侵入で逮捕され、実名で報道された職員は、直前に国労を脱退したところ、減給処分という著しく軽い処分で済ませた上、承継法人に採用された。

エ 以上によれば、国鉄が、右原告両名を右名簿に不登載とした措置は、その組合活動を理由とするもので、違法であることが明らかである。

(三)  JR西日本は、国鉄が右名簿に登載した者全員を採用したのであるから、右原告両名も登載されていれば、当然JR西日本に採用されたものと認められる。よって、右不法行為と相当因果関係のある右原告両名の損害は、右原告両名が、平成二年四月一日以降、JR西日本に採用されれば受けたはずである賃金、夏季及び冬季一時金相当額である。

なお、被告は、国鉄の本件名簿不登載行為が、右原告両名の法的利益を侵害するものではなく、その主張する損害との間の相当因果関係を否定するようであるが、国鉄とJR西日本など承継法人は、実質的な同一性が認められ、国鉄の労働者であった者の地位を保護する解釈がとられるべきであり、被告の右主張は失当である。

(1) 原告中島

賃金(弁済期毎月二〇日)一か月金三七万九八三〇円

夏季一時金(同毎年六月二九日)各金九三万一七八八円

冬季一時金(同毎年一二月一〇日)各金九三万一七八八円

(2) 原告大矢

賃金(弁済期毎月二〇日)一か月金三四万八五二〇円

夏季一時金(同毎年六月二九日)各金九〇万三五五二円

冬季一時金(同毎年一二月一〇日)各金九〇万三五五二円

よって、原告中島は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、平成二年四月一日以降、毎月二〇日限り金三七万九八三〇円、毎年六月二九日及び毎年一二月一〇日限り各金九三万一七八八円及び右各金員について、不法行為の後である右各支払期日の翌日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、原告大矢勝は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、平成二年四月一日以降、毎月二〇日限り金三四万八五二〇円、毎年六月二九日及び毎年一二月一〇日限り各金九〇万三五五二円及び右各金員について、不法行為の後である支払期日の翌日から各支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の主張

1(本件教育の概要)

国鉄は、昭和六一年七月一日から七月二二日まで、吹田機関区において、本件教育を実施することにした。

本件教育では、乗務員と検修員の二グループに分けた上、まず、机上教育を実施し、その後、実務の見習いを行うこととし、第一日目一時限目(九時から九時四五分まで)にオリエンテーション、二時限目(九時五五分から一〇時四〇分まで)に開講式を、乗務員、検修員が合同で行い、以後は、各教室に分かれて正規の授業が予定されていた。本件机上教育の受講者は、原告ら全員を含む検修員三一名、乗務員二九名であり、受講者は、事前に制服、氏名札等を携行するように指示されており、授業は、制服、氏名札を着用して受講することになっていた。

受講時間は、四五分授業を午前四時限、午後四時限とし、午前八時五〇分に出勤点呼を行った上、第八時限が午後五時〇五分に終了し、同五時二五分に退出する予定であった。教室は、検修員が一階の検修教室、乗務員が別棟二階の乗務員教室が使用されることになっていた。

なお、その授業内容は、電気機関車の主回路機器、配線図、台車ブレーキ、保安装置、補助機器の解説、運動理論等が予定されていた。

2(原告らの行為)

(一)(七月一日の原告らの行動)

(1) 同年七月一日、国労大阪地方本部の役員数名と原告ら全員を含む約五、六〇名は、授業開始の前である午前八時四八分ころ、デモ行進をしながら、吹田機関区の正門に到着し、管理者らが、受付で所属と氏名を申告するよう求めたにもかかわらず、これを無視して、所定の手続をしないまま、オリエンテーションと開講式が予定されていた検修教室へなだれこんだ。

(2) 検修教室において、前記役員数名と共に原告中島、同大矢、田岡が中心となり、原告三浦、同中谷、同杉本、同福井、同高松らが、吹田機関区の管理者である区長、助役らに対し、「なぜ転換教育が必要か。」「なぜ、我々が選ばれたのか。」など大声をあげて詰め寄った。

(3) 検修教室には、原告らと共に組合役員も数名入っていたので、管理者は、関係のないものは退去し、受講者は着席するように指示したところ、原告ら全員は、就業時間内で授業を受ける義務があるにもかかわらず、全員教室を出て、外の前庭に集合した。

そこで、原告中島、同大矢は、シュプレヒコールのリーダーとなってハンドマイクを使用し、その他の原告らに対し、シュプレヒコールを指導した。その際、原告木村は、「関係のない当局こそ帰れ。」と大声で抗議した。このため、付近は、喧騒を極め、周辺の建物で業務を行っていた他の職員の業務を妨害した。原告らは、管理者の再三にわたる「受講者は、教室に入りなさい。」という支持に従わず、この間、結局、午前九時一六分から同一〇時〇五分ころまで、オリエンテーションと開講式の実施が不能となった。

(4) 午前一〇時〇五分ころ、原告ら全員が、検修教室に入り、着席したので、午前一一時二〇分ころまでオリエンテーションが実施された。

その後、一〇分間休憩した後、管理者である区長が、午前一一時三〇分ころから、開講式を実施しようとしたところ、原告中島は、区長に対し、転換教育が不当であるとか、食事代や乗車証等についての要求を記載したメモを読み上げ、開講式を妨害した。そのため、午前中には開講式が実施できなかった。なお、この間、管理者は、本来、回答の必要はなかったが、原告らを納得させるため、可能な範囲で、右要求について回答した。

(5) 昼の休憩後、管理者である区長が、午後一時二五分から予定されていた第五時限目に、午前中に実施できなかった開講式を検修教室で実施しようとしたところ、原告中島、同中谷、同福井、同三浦らが、座席から立ち上がり、区長を取り囲んで、「我々の質問に答えよ。」、「一方的に実施するな。」などと大声で抗議したため、検修教室は騒然となり、開講式は混乱した。

区長は、このような混乱状態の中で、取りあえず、開講の宣言だけを行い、六時限目以降乗務員は別棟の乗務員教室で、検修員は同所で授業を行う旨指示した。

(6) 第六時限の授業開始に当たり、受講者全員が検修教室に集合していたので、講師及び管理者が、「乗務員は、別棟二階の乗務員教室へ行きなさい。」と指示して、案内しようとした。これに応じ、原告ら以外の二名の職員が、素直に従って乗務員教室へ向かったが、原告ら全員は、検修教室に留まり、「一方的な開講式だ。納得できない。」などと抗議し、全く授業を受ける意思と態度を示さなかった。

続く第七時限目、八時限目も同様で、原告ら全員が検修教室に留まったままであったため、この間、講師は、授業を進めることが出来ず、やむなく、カリキュラムの説明をした程度であった。

(7) 以上のように、原告らが、管理者の指示に従わず、授業を妨害し、本件教育を真面目に受講しようとしなかったため、オリエンテーションと開講式は、取りあえず終了したものの、同日の第三ないし第八時限の授業は、全く実施できなかった。

(8) 八時限目終了のころ、区長及び首席助役は、原告ら全員が集合している検修教室に行って、「本日は、正当な授業と認めることができない。」「明日以降は、乗務員と検修員に別れて授業を受けること」「授業を受けるについては、制服、氏名札を着用すこと」などを注意して通告した。

(9) 午後五時三六分ころ、勤務時間外であるが、原告らが構内(給水塔前)で集会をしようとしたので、区長が、再三「施設内での集会は許可していない。直ちに退去しなさい。」と通告した。原告らは、これに従わず、集会を行い、田岡が「今日は、一方的な開講式であった。我々は、開講式と受け止めていない。」などと挨拶した。

(二)(七月二日の原告らの行動)

(1) 同日の第一時限目の状況は次のとおりである。

〈1〉 原告ら以外で正規に授業を受けようとした新幹線乗務員二名は、定められた制服、氏名札を着用し、当初から指示された乗務員教室で待機していたが、原告ら全員を含むその余の者は、前日の指示に反して、乗務員教室から椅子を運び込むなどして、朝から全員検修教室に集合していた。また、原告らは、前日の指示に反して、全員、制服でなく、私服を着用し、氏名札を着用していなかった。

なお、検修教室には、新幹線の検修員三名及び高槻電車区の検修員一名が、正規の授業を受けるべく、制服、氏名札を着用して同教室内で原告らと混じって待機していた。

講師は、始業に当たり、原告らに対し、乗務員は所定の教室へ行くように指示したが、原告らは、従わず、呼名点呼にも全く応じなかった。

〈2〉 午前九時、乗務員教室では、新幹線乗務員二名に対して、授業が開始された。

これに対し、検修教室では、講師が、再三、乗務員は所定の教室へ行くように指示を繰り返したにもかかわらず、原告らは、全員、検修教室を動かず、「開講式が終わっていない。」「こんなところで授業が受けられるか。」「なぜ、学園で教育しないのか。」など講師に向かって口々に抗議を続けたため、講師は、「授業が妨害されてできない。授業のボイコットとみなす。」と発言して、退席しようとした。

すると、田岡、原告中島、同大矢らを中心に、原告杉本、同三浦、同高松、同永富、同木村、同福井ら一〇名ほどの者が講師を取り囲み、前記同様のことを口々に述べて、退出できない状態になった。そこで、区長、首席助役らが検修教室に入室して、講師を救出し、「乗務員は、所定の教室へ行きなさい。授業のボイコットとみなします。」と通告して区長らも講師室の方へ引き上げた。

〈3〉 原告ら全員は、教室から講師室へ押し掛け、原告永富、同木村、同福井らのリードにより、「管理者は、帰れ。」など大声でシュプレヒコールを行った。

この際、田岡、原告中島、同大矢、同中谷、同三浦、同福井、同杉本、同足立、同高松、同永富、同木村、同北野らは、原告らの前面に出て、事態に備えて、吹田機関区に詰めていた管理者に対し、「あんたら、何しに来とるんや。」「管理者は帰れ。」「環境が悪い。」などと大声で抗議した。

〈4〉 第一時限目の終わり近くの午前九時三五分ころ、田岡が、原告ら全員に対し、「みんな、教室へ入ろう。」と発言したことを契機に、原告ら全員検修教室に戻り、二時限目には、原告らは、乗務員と検修員とに分かれて、それぞれの教室へ入った。

〈5〉 以上の経緯で、原告らの妨害のため、第一時限目の授業は全く実施できなかった。

(2) 第二時限目から第四時限目の授業時間は、原告らは各教室の所定の席に着席したが、依然として、制服、氏名札を着用せず、私服のままであって、各自の机上に配布した教科書の受領印も押さず、教科書をまとめて縛ったひもも解かずに机上に放置するなど、授業を受ける態度を全く示さなかった。

(3) 昼の休憩時間中、区長が集会の中止を求める指示をし、警告をしたにもかかわらず、原告ら全員を含む全受講者は、検修教室において、集会を行った。

(4) 午後の第五時限目から第七時限目の授業も、原告らの態度は、おおむね午前中と同様であり、授業を受ける姿勢を示さないままであった。とりわけ、原告ら中、検修員がいた検修教室では、田岡は、後ろを向いて授業を露骨に拒否する態度を示し、講師が注意したが、従わず、原告中谷、同三浦も、田岡に呼応して、後ろを向く、反抗的な態度を示した。

また、乗務員教室では、原告大矢が、「開講式をしていないから、授業は受けない。自己紹介ぐらいならしてもよい。全員の自己紹介をしたいので、先生は、こっちに座ってくれ。」と述べるなど授業の進行を妨げる態度を示した。

(5) 第八時限目、講師が、各教室へ行ったところ、原告らは、教室におらず、原告ら全員は、約二〇〇メートル離れた別棟の区長室前に押し掛け、「教室が暑い。」「道路工事の騒音がやかましい。」などと言って抗議し、管理者が各教室に戻るよう指示したが、これを無視し、十数分ほど大声で抗議を続け、結局、授業が行えなかった。

この間、区長室及び隣接の事務室では、職員が執務中であったが、この喧騒状態のため業務が妨害された。

(6) 以上のような状態で、第二日目も推移し、正規の授業が行えなかったため、第八時限の終了後、管理者は、原告ら全員を含む全受講者に対し、次の警告文を各教室の掲示板に掲示すると共に、口頭でも同内容の警告を発した。

「 警告!

制服を着用するよう注意したにもかかわらず、従わなかった者について現認しているが、明日からの授業は、制服、氏名札を着用せず、教科書の受領印を押捺しない者は授業を受ける意志がないことを確認する。

六一・七・二 吹田機関区長」

これに対し、原告中島、同大矢らは、「我々は、授業を受ける意思がある。」などと口々に抗議した。

(三)(七月三日の原告らの行動)

(1) 第一時限目の授業前、検修教室の黒板には、「制服は着用する。」「氏名札は着用しない。」などと書かれており、原告らが、前日と同様、正規に授業を受けないことを示す文章が書かれていた。

(2) 第一時限目、正規の授業を受ける意思を示していた新幹線乗務員二名は、乗務員教室にいたが、原告ら全員を含む残りの受講生全員は、検修教室に入っていた。

そのため、講師が、検修教室において、「乗務員は、この教室から出て下さい。」と指示したが、誰も出て行かず、検修員の点呼に対して、誰も返事をしなかった。

なお、原告らは、黒板に書いてあったように全員制服を着用していたが、氏名札は着用していなかった。

このような状況から、講師は、正規の授業ができない状態にあると判断して、検修教室を退出した。

(3) 講師が退出した直後の午前八時五七分ころ、原告中島、同大矢、同中谷、同北野、同福井、同足立、同永富、同山本孝一、同木村らが、検修教室から出て、講師室前に集まった。区長は、右原告らに対し、教室に戻るよう指示したが、右原告らはこれに従わず、原告中島が中心となって、全員で要望があると大声を張り上げた。

それに、他の原告ら全員が次々に加わり、同所で「当局は、誠意をもって回答せよ。」「当局は、団交を開け。」などとシュプレヒコールを行った。

このような状態が、午前九時〇八分まで継続し、その後、原告らは、全員いったん教室へ戻ったが、検修教室には乗務員たる原告らが依然として残っていた。

そこで、講師は、乗務員は所定の教室へ戻るように指示したが、原告らは、これを無視したままであった。

その後、原告らは、授業を受けようとせず、検修教室に留まったり、同教室を出て、裏庭に集まったりした。

(4) 第三時限目になって、ようやく、原告らは、乗務員と検修員に分かれて所定の教室へ入った。

しかし、講師は、各教室で、原告らに対し、氏名札の着用と教科書の受領印の押捺を指示したにもかかわらず、原告らがこれに従わなかったため、授業を受ける意思がないものと判断して、退室した。

(5) 第四時限目も、講師は、原告らの態度が第三時限目と同様の状態であったため、授業を受ける意思がないものとして退室した。

(6) 午後の第五時限目も、同様の状態が続いた。しかし、第六時限目、管理者は、今回の受講者六〇名中六名の者(乗務員二名、検修員四名)が、当初から制服、氏名札を着用し、受領印を押捺して正規の授業を受ける意思を示していたことから、原告らの妨害行動により、右六名の受講がいつまでも妨害され続けてはならないと考え、この六名の者に別の場所で受講させるべく移動させようとした。しかし、検修教室では、原告中谷、同杉本が、「挑発するのか。」と大声を上げ、乗務員教室でも、原告大矢、同高松、同足立、同山本孝一らが、大声を出して、当局の右措置を妨害した。

しかし、管理者は、結局、右六名の者を別の部屋へ移し、同所において授業を受けさせた。

(7) 第七、八時限目も、原告らは、乗務員と検修員に分かれてそれぞれの教室に入ったが、依然として、氏名札の着用及び教科書の受領印の押捺を拒否し、受講する意思を示さなかったので、授業を実施できなかった。

(8) その後、各教室において、退出点呼を行ったが、原告らは、全く返事をしなかった。そこで、区長は、原告ら全員に対し、「明日は、制服を着用し、定められた氏名札を着け、教材の受領印を押捺し、教材を開いて授業が出来るような条件を整えなさい。本日は、授業が出来ていないことを確認します。」と告げ、明日からは、正規の授業を受けるように注意、警告した。

(四)(七月四日の原告らの行動)

(1) 午前八時五〇分の出勤点呼の際、原告ら全員が乗務員教室に集合していたため、講師が、原告らに対し、所定の教室に戻るよう指示したが、戻らず、そのため、呼名点呼ができなかった。

(2) 第一時限目、原告らは、乗務員と検修員に分かれて、所定の教室に入っていたが、依然として氏名札を着用せず、教科書の受領印の押捺もしないで、教科書も、ヒモでくくられ配付された時のままの状態で放置され、授業を拒否している状態が歴然としていたので、各講師は、原告らに授業を受ける意思がないものと判断して、退出した。

そうした中で、原告中島は、講師室へ来て、年休を申し込む旨述べた。首席助役が、勤務時間中であることを理由に教室へ戻るよう指示したところ、同原告は、いったん教室に戻ったものの、以後、同原告を含む原告ら全員が、講師室へ押し掛け、年休の申込みであるなどと述べた。

区長は、原告ら全員に対し、所定の教室へ戻るよう指示したが、原告らは、第一時限目の午前九時二〇分から約二〇分間講師室前に留まり、田岡、原告中島、同大矢、同中谷、同北野、同三浦らが、区長に対し、口々に抗議を続けた。そのうち、田岡(宮原電車区所属)が「現場の助役に質問しよう。」と述べたのを契機に、原告足立(高槻電車区所属)、同山本孝一(同)、同三浦(同)、同中島(宮原電車区所属)、同大矢(同)、同北野(向日町運転所所属)らが、次々に、原告らの右行為の現認のために来ていた原告ら所属区所の管理者などの上司に向かって、「何しに来たんだ。」、「お前らが送り込んだ。」などと口々に抗議した。

(3) 第二時限目以降第七時限目まで、各教室において、原告らは、前日同様、正規に授業を受ける態度を示さなかったので、授業は、実施されなかった。

(4) 第八時限目、田岡が、教室を出て講師室の前に来ると、区長に対し、「年休は、どうなっているのか。」と尋ねたので、区長が、「一七時〇五分に話すので、すぐに戻りなさい。」と警告したところ、田岡は、いったん教室へ戻った。しかし、間もなく、原告ら全員が教室を離れて、講師室へ押し掛け、原告大矢の指示の下に「年休を出せ。」とシュプレヒコールを行い、午後四時三〇分から四〇分ころまでの間の約一〇分間抗議を続けた。

(五)(七月七日の原告らの行動)

(1) 原告ら全員は、制服、氏名札を着用すると共に教科書の受領印も押捺し、乗務員と検修員に分かれて、所定の教室へ入った。この際、田岡は、「我々は、条件を整えた。」などと発言し、また、騒動に備えて待機していた管理局等の管理者を見て、田岡、原告中島、同大矢、同中谷、同杉本、同三浦、同足立、同北野らは、講師室まで来て、「我々は、授業を受ける意思はあるが、管理者の監視の下では気が散って授業ができない。」などと約五分間にわたり抗議をしたが、区長の指示により、所定の教室に戻った。

(2) これ以後、正規の授業が行われることになったが、原告らの抗議行動、授業拒否、職場離脱などにより、約四日間のカリキュラムが行えず、教育に大きな支障が出た。

(六)(七月八日の集会と田岡の発言)

休憩時間中、原告らは、集会を開いたが、その中で、田岡は、「一日から四日までの四日間は、スト権スト以来の事実上のストライキをやって来た。」と原告らのこの間の行動を総括する発言をした。

3(原告らの行為の懲戒事由該当性)

原告らの行為は、抗議行動、授業拒否、職場離脱などにより約四日間のカリキュラムの実施を不能にして、被告が実施しようとした本件教育に支障を生じさせたもので、一般企業では到底考えられないほどの常軌を逸した業務妨害、業務命令違反であり、職場秩序を著しく乱した行為である。

(一)  日本国有鉄道法三一条は、国鉄の職員が、同法又は国鉄の定める業務上の規程に違反した場合、又は職務上の義務に違反し、又は義務を怠った場合、総裁は、当該職員に対し、懲戒処分としての免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる(同条一項)、停職の期間は、一月以上一年以下とする(同条二項)旨を定め、国鉄の就業規則は、懲戒処分事由として、責務を尽くさず、よって業務に支障を生じさせた場合(一〇一条二号)、上司の命令に服しない場合(同条三号)、ゆえなく職場を離れ、又は職務に就かない場合(同条六号)、職務上の規律を乱す行為のあった場合(同条一五号)、その他著しく不都合な行為のあった場合(同条一七号)を定める。

(二)  原告らの各行為は、日本国有鉄道法三一条所定の懲戒処分事由である国鉄の定める業務上の規程に違反した場合、職務上の義務に違反し、又は義務を怠った場合に該当し、就業規則所定の右懲戒処分事由にも該当するところ、各自の懲戒事由に該当する行為は以下のとおりである。

(1) 原告中島は、2の(一)の(1)ないし(7)の行為、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)ないし(6)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為を行ない、同大矢は、2の(一)の(1)ないし(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)ないし(6)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為を行ったが、右原告両名は、管理者へ抗議等の抗議行動の際、率先してこれを行って指導的、中心的な役割を果たし、その結果、約四日間のカリキュラムの実施を不能にして、国鉄が実施しようとした本件教育に支障を生じさせ、国鉄の業務を妨害して、職場秩序を著しく乱した者であり、その責任は極めて重い。

したがって、右原告両名の右行為は、右原告両名に対する本件各処分事由である「昭和六一年七月、吹田機関区において、多車種教育を実施した際、同月一日から四日までの間及び同月七日、管理者の再三にわたる業務命令に従わず、勤務時間中定められた講習室を離れたり、受講者の中心となって管理者等に抗議を行うなど職場秩序を乱した上、同教育に多大な支障を与えたことは、職員として、著しく不都合であった。」に当たり、その懲戒処分は、日本国有鉄道法三一条に基づき停職六か月が相当である。

(2) 同中谷は、2の(一)の(1)ないし(3)、(5)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為をした。同杉本は、2の(一)の(1)ないし(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為をした。

同北野は、2の(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉、〈3〉、(2)、(4)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為をした。

同三浦は、2の(一)の(1)ないし(3)、(5)、(6)、(二)の(1)の〈1〉、〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(5)、(7)、(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為をした。

同足立は、2の(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉、〈3〉、(2)、(4)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為をした。

右原告らは、前記の各抗議行動の際、管理者に対する抗議を頻繁に行い、抗議行動実行の際重要な役割を積極的に果たした者であり、その結果、約四日間にわたり本件教育の実施を不可能にしたものであって、その責任は重大である。

したがって、右原告らの行為は、同原告らに対する本件各処分事由である「昭和六一年七月、吹田機関区において、多車種教育を実施した際、同月一日から四日までの間及び同月七日、管理者の再三にわたる業務命令に従わず、勤務時間中、定められた講習室を離れたり、管理者等に抗議を行い職場秩序を乱した上、同教育に多大な支障を与えたことは、職員として、著しく不都合であった。」に当たり、その懲戒処分は、同法三一条に基づき停職四か月が相当である。

(3) 同永富は、2の(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(5)、(7)、(8)、(四)の(1)ないし(4)などの行為をした。

同木村は、2の(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(5)、(7)、(8)、(四)の(1)ないし(4)などの行為をした。

同福井は、2の(一)の(1)ないし(3)、(5)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(5)、(7)、(8)、(四)の(1)ないし(4)などの行為をした。

同山本孝一は、2の(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉、〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)などの行為をした。

同高松は、2の(一)の(1)、(2)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)などの行為をした。

右原告らは、前記の各抗議行動の際、管理者に対する抗議を頻繁に行い、抗議行動実行の際重要な役割を積極的に果たした者であり、その結果、約四日間にわたり本件教育の実施を不可能にしたものであって、その責任は重大である。

したがって、右原告らの行為は、同原告らに対する本件各処分事由である「昭和六一年七月、吹田機関区において、多車種教育を実施した際、同月一日から四日までの間、管理者の再三にわたる業務命令に従わず、勤務時間中、定められた講習室を離れたり、管理者等に抗議を行い職場秩序を乱した上、同教育に多大な支障を与えたことは、職員として、著しく不都合であった。」に当たり、その懲戒処分は、同法三一条に基づき停職四か月が相当である。

(4) その余の原告ら二九名中、原告善利を除く二八名は、2の(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉、〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(5)、(7)、(8)、(四)の(1)ないし(4)などの各行為に参加したものであり、四日間にわたり自ら抗議行動に参加して、四日間本件教育を受けようとしなかったものであり、その責任は重い。

したがって、右原告らの行為は、同原告らに対する本件各処分事由である「昭和六一年七月、吹田機関区において、多車種教育を実施した際、同月一日から四日までの間、管理者の業務命令に従わず、勤務時間中、定められた講習室を離れていわゆる抗議行動に参加し、職場秩序を乱した上、同教育に多大な支障を与えたことは、職員として、著しく不都合であった。」に当たり、その懲戒処分は、同法三一条に基づき停職三か月が相当である。

(5) 原告善利は、2の(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉、〈3〉、(2)、(4)、(5)の行為に参加して、二日間本件教育を受けようとしなかったものであり、その責任は重い。

したがって、同原告の行為は、同原告に対する本件各処分事由である「昭和六一年七月、吹田機関区において、多車種教育を実施した際、同月一日及び二日、管理者の業務命令に従わず、勤務時間中、定められた講習室を離れていわゆる抗議行動に参加し、職場秩序を乱した上、同教育に多大な支障を与えたことは、職員として、著しく不都合であった。」に当たり、その懲戒処分は、同法三一条に基づき停職一か月が相当である。

4(本件各処分の適法性)

本件各処分には、原告主張の違法無効理由は存在せず、適法である。

(一)  本件教育受講を命ずる業務命令は、適法かつ有効であり、これに対する原告らの違法な抗議行動を理由にされた本件各処分は、適法である。

(1) 本件教育の目的は、ECしか運転又は検修できない国鉄職員について、ELの運転又は検修もできるよう教育し、職員の要員運用の効率化を図ることにある上、昭和六二年一月当時でも、大阪鉄道管理局管内で取扱う電気機関車(EL)車両が約三〇〇存在したのであるから、本件教育は、事業上の必要性に基づき実施されたことが明らかである。

(2) 本件教育は、国鉄就業規則一〇七条ないし一〇八条に基づいて行われる「教育訓練」であり、「全職員を対象として、あらゆる機会と場所を活用して行う」ことができる(一〇七条)。そして、右教育訓練には、職場内教育基準規程が適用されるところ(一〇九条)、本件教育は、右規程八条にいう講習会であり、地方機関の長である大阪鉄道管理局長が、計画実施し(同規程九条)、講習対象者、講習期間、講習時間数を決定し(同一〇条)、その内容については、教育機関基準規程三三条を準用して行われたものである(なお、本件教育は、教育機関基準規程所定の転換教育ではなく、これを準用した内容である。)。

したがって、本件教育は、就業規則に基づき行われたもので、適法であり、実施場所を吹田機関区としたことも何ら違法ではない。

また、本件教育受講を命ずる業務命令は、原告らについて、教育期間中吹田機関区の兼務発令をしたが、教育修了後兼務を解除する旨明らかにしているので、原告らの地位を不安定にするものでないことも明らかである。

(3) 国鉄と国労との間には、原告の主張する昭和四二年一二月一五日付け協定、昭和四六年二月一九日付け確認事項があることは認めるが、本件教育受講を命ずる業務命令及び本件教育の実施が右各協定及び確認事項に違反するとの主張は争う。本件教育の実施は、管理運営事項であり、団体交渉の対象とはならない上、国鉄は、本件教育について、各組合に対し、説明を行い、協議ないし質問に対し、回答している。

(4) 本件教育は、原告らが主張するように本件三電車区のみを狙い撃ちにしたものではなく、不当労働行為に当たらない。

ア 本件教育は、大阪以東の職場を対象として、多車種教育の第一回として計画実施され、高槻電車区、運転士一〇名、検修員九名、宮原電車区、運転士七名、検修員九名、向日町運転所、運転士一〇名、検修員一〇名、新幹線総局、運転士二名、検修員三名が受講者として指名され、その後も、第二回が、大阪以西の職場を対象として、昭和六一年八月一日から同月二五日まで、姫路機関区で実施され、第三回が、第一、二回の参加者を除く管内全域を対象として、同年一〇月一日から二四日まで関西鉄道学園で実施されるなど、本件三電車区以外でも実施され、教育内容も、技術教育であり、期間も限定された短期間であって、教育修了後兼務発令を解除し、元職場に戻している上、通勤可能な場所で本件教育を実施したのであるから、本件教育期間中も、組合活動が可能であった。

また、本件三電車区の執行委員長が本件教育受講を命ずる業務命令を受けていないことからしても、本件教育受講を命ずる業務命令が不当労働行為に当たらないことが明らかである。

イ 原告らは、広域異動により、九州から動労組合員が宮原電車区などに多数配属されたため、国労組織が弱体化し少数となった旨主張するが、九州や北海道から東京、大阪への広域異動に対し、国労が反対し、国労組合員も右異動に応じなかったため、結果的に、広域異動により、右各電車区に転入した者が国労以外の組合員が多くなったにすぎず、このことから、本件教育受講を命ずる業務命令が不当労働行為に当たるということはできない。

(二)  本件各処分は苛酷なものとはいえず、前例に比較して重きに失するとはいえない。

前記主張の原告らの行為態様に照らせば、本件各処分は相当な内容であり、処分権の濫用もない。

原告ら主張の各ストライキ闘争において処分がされたことは事実である。しかし、これらの事案は、いずれも、公共企業体等労働関係調整法に違反する争議行為に対する処分であって、その事案は、組織指令に基づき各組合員の個人的な意思にかかわりなく実施されたものであるのに対し、本件事案は、被告の業務を四日間にわたり、妨害したものであるが、このような事態の招来については、原告ら個々人の意思が強く反映し、個人責任の重い事案であり、事案が異なる。民間企業においては、本件のように業務命令を四日間も拒否すれば、解雇もやむなしとされる事案である。

5 (損害賠償請求)

原告中島、同大矢に対する本件各処分が適法である以上、国鉄が、右両名について、JR西日本の採用基準である「日本国有鉄道在職中の勤務状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること」に該当しないと判断して、JR西日本設立委員に提出すべき本件名簿に登載しなかった行為に違法がないことは明らかであり、また、国鉄の右行為が、右原告両名の法的に保護された地位を侵害したものともいえないのであるから、右原告両名の損害賠償請求は理由がない。

四  主な争点

1  本件教育受講を命ずる業務命令の適法性

2  右業務命令が不当労働行為か否か

3  原告らの行為の正当性相当性と本件各処分の処分事由の存否

4  本件各処分の処分権濫用の有無

5  本件各処分が不当労働行為か否か

6  国鉄が原告中島、同大矢をJR西日本設立委員に提出すべき本件名簿に登載しなかった行為が不当労働行為に当たるか否か

第三証拠

記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四争点に対する判断

一  (本件各処分に至る経緯)

当事者間に争いのない事実に証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  (本件教育受講を命ずる業務命令発令に至る経緯)

(一) 原告らは、昭和六一年七月当時、国鉄の職員であり、別紙処分一覧表所属欄記載のとおり、国鉄大阪鉄道管理局内の本件三電車区に勤務して、運転士又は車両検査係の職にあり、原告ら中二六名は、同表記載の国労の役職にあった。昭和六一年四月当時の本件三電車区の職員数は、高槻電車区が運転士二四〇名(内国労組合員一六〇名)、検査係一六六名(同一四七名)、宮原電車区が運転士二六六名(同一五七名)、検査係一五九名(同一二〇名)、向日町運転所五七四名(同四四六名)であった。

(二)(1) 国鉄大阪鉄道管理局の昭和六一年六月当時の要員状況は、EC運転士では、所要員九二二名に対し、実在員一〇八四名と一六二名の余剰人員があり、同車両検査係では、所要員三八〇名に対し、実在員四九八名と一一八名の余剰人員があり、EL機関士では、所要員五三五名に対し、実在員六四四名と八九名の余剰人員があり、同検査係の所要員一八一名に対し、実在員二六一名と九〇名の余剰人員があった。これらの余剰人員については、全職員が、本来の交番表に組み込まれて業務に従事する期間、必要に応じて本来の業務に従事する期間、本来の業務に従事することが予定されていない期間を交代で繰り返すいわゆるローテーション方式で調整する方法が取られていた。

(2) 国鉄大阪鉄道管理局内において、当時、EC関係の乗務員が約二〇〇〇名で、業務の中心となっていた。他方、同年一一月実施のダイヤ改正ではELが減少したが、EL関係の業務に従事する機関士、乗務員が約一〇〇〇名であり、電気機関車(EL)車両も約三〇〇存在していた(〈人証略〉)。そして、同年七月当時、同管理局管内では、運転士が、一勤務の内に、姫路から岡山まで貨物列車及び岡山から姫路までの荷物列車である電気機関車(EL)を運転し、姫路から大阪まで快速電車(EC)を運転し、その後、大阪から姫路までの荷物列車は電気機関車(EL)を運転して戻るなど、同一運転士がECとELの双方を運転する勤務が実施されていた(〈証拠略〉)。なお、当時、同管理局内においてEC及びELを両方運転できる運転士は約八〇名であった。

(3) 同年五月から七月まで、広域異動の実施として、九州地区から、第一派七四五名(内七二名が宮原電車区に配属された)、第二派二八二名が同管理局内に転入したが、その多くが、動労に所属するEL機関士であった。

なお、国労は、このような広域異動に反対しており、国労組合員は、広域異動に応じない例が多かったのに対し、動労は、広域異動に積極的に応ずる方針を採っており、その組合員が広域異動に応ずる例が多かった。

(三) 国鉄大阪鉄道管理局は、同年六月一一日、動力車乗務員を対象として、ELからECへの転換教育を同月三〇日から関西鉄道学園で実施する旨発表し(〈証拠略〉)、その受講者三〇名は、国労組合員を含む応募者から現場長が推進して決定されたが、全員動労組合員であった。その後も、右転換教育は、昭和六二年三月までの間、計六回実施され、その修了者が、本件三電車区などのEC関係の職場に配属された。

(四) 国鉄大阪鉄道管理局長は、前記のような余剰人員が生じている状況にかんがみ、前記のように動力車乗務員に対するELからECへの転換教育を実施すると共に、ECしか運転又は検修できない国鉄職員について、ELの運転又は検修もできるよう教育することで、職員の要員運用の効率化を図ることを目的として、本件教育を実施することを決定した。そして、同管理局は、同年六月二三日午後四時ころ、国労大阪地方本部に対し、「多車種教育の実施について」と題する書面(〈証拠略〉)を交付し、本件教育の実施について説明した。右文書には「ECからELへの転換教育を次により実施する。一 実施時期 七月一日以降準備出来次第。二 対象区所及び対象職名高槻、宮原各電車区及び向日町運転所(EC)の電車運転士及び車両検査係三 人員 若干名 四 実施場所 吹田機関区 五 その他 (1) 転換教育中は、吹田機関区に兼務発令とし、教育修了後、兼務を解除する。(2) 教育を受ける者の指定については、別途本人に通知し説明する。」旨の記載があった。なお、本件教育は、国鉄大阪鉄道管理局が昭和六一年度当初に国労側に説明した教育計画には、含まれていなかった。

(五)(1) 本件教育の受講者として、高槻電車区、運転士一〇名、検査係九名、宮原電車区、運転士七名、検査係九名、向日町運転所、運転士一〇名、検査係一〇名の原告ら四一名を含む五五名と、新幹線総局、運転士二名、検修員三名の計六〇名が受講者として指名され、(四)の文書、吹田機関区兼務を命ずる(七月一日付け)と記載された文書及び教育案内(〈証拠略〉)を交付して、本件教育受講を命ずる業務命令を発した(原告中島については、同月二七日)。

教育案内中、運転士に対するもの(〈証拠略〉)には「1 集合日時及び集合場所 昭和六一年七月一日八時五〇分(時間厳守)吹田機関区会議室、2 教育期間等 机上教育及び場所七月一日から七月二二日 吹田機関区会議室、実務見習期間及び場所 七月二三日から九月一九日 場所別途、実務試験及び場所 九月二二日から九月二四日 場所別途、実務試験合格後の扱い 兼務を解除する、3 教材等教育期間中必要な教材を整える。4 携行品(1) 制服、制帽、記章、認印、(2) 教育に必要な事務用品は、各自準備すること。5 教育期間中の取扱い(1) 吹田機関区兼務発令となる(八時五〇分から一七時二五分)。なお、通勤のこと。(2) 連絡先 吹田機関区事務室」などの記載があり、検査係に対するもの(〈証拠略〉)には、担務見習期間及び場所について、七月二三日から八月二五日場所別途、と記載されるほかは、運転士に対するものと同様の記載がある。

(2) 本件教育の受講者の組合所属は、本件三電車区五五名中五三名が国労、二名が全動労の組合員であり、新幹線総局からの五名は、全員国労の組合員であった。

2  (本件教育受講を命ずる業務命令発令後本件教育実施に至る経緯)

(一) 国労大阪地方本部は、昭和六一年六月二五日、国鉄大阪鉄道管理局に対し、従来の労使間の経緯からみて、本件教育の実施については、団体交渉で協議すべきであり、その協議が整うまで実施を中止することを求めるとともに、〈1〉 転換教育を必要とする基地計画、車両乗務員の運用計画、要員需給を明らかにすること、〈2〉 転換教育を受ける者を、指名する基準を明らかにすること、〈3〉 指名を受けた者について、生活その他の条件により変更することがあるか明らかにすること、〈4〉 関西鉄道学園でなく、吹田機関区で教育を実施する理由を明らかにすること、〈5〉 通勤事情等により教育を受けるため宿舎を確保するか否かを明らかにすること、〈6〉 本件教育を、本件三電車区に限定した理由を明らかにすること、〈7〉 吹田機関区で教育をする場合のカリキュラム、講師などを明らかにすること、〈8〉 実乗務見習の職制上の根拠を明らかにすること、〈9〉 教育に運転検修係が含まれていない理由を明らかにすること、〈10〉 教育修了者に業(ママ)務が解除された場合の元職場復帰を明らかにすることなどを質問する書面(〈証拠略〉)を交付した。

(二) 国鉄大阪鉄道管理局長は、同月二八日、国労大阪地方本部に対し、本件教育は、幅広い技術、資格を取得するための転換教育であり、実施計画の内容は、過日説明したとおりである、本件教育は、当局が、その責任において実施するものであり、団体交渉として取り扱う事項ではないと考えるが、具体的な労働条件に関する提起があれば、その内容により、労使間のルールに基づき取り扱う旨の文書(〈証拠略〉)を交付して回答した。その際、同管理局長は、右申入れに係る点について、〈1〉に対し、多車種教育の一環として実施したものである、〈2〉に対し、当局が適任と判断して指定したものである、〈3〉に対し、発令の内容に従うのは、職員として当然のことであると考えるが、教育過程において個別具体的に判断し、対処することとなる、〈4〉に対し、多車種教育の一環として、今回現場で実施することとしたものである、〈5〉に対し、通勤を原則としており、今回指定した者は、全員通勤できるものと判断しているが、個人の申告の中で、具体的内容を勘案し、対応することがある、〈6〉に対し、需給状況、場所等を勘案し、計画したものである、〈7〉に対し、教育内容については、学園とほぼ同様の内容であり、講師については、学園の講師を充当することとなる、〈8〉に対し、学園修了者に準じた扱いをすることにより、現行と同様の職制上の扱いになる、〈9〉に対し、今回は、電車運転士及び車両検査係を対象にした計画である、〈10〉に対し、教育修了後は、兼務を解除することになる旨を記載した文書(〈証拠略〉)を交付して、その見解を明らかにする旨回答した。

しかし、その後、国労大阪地方本部から国鉄大阪鉄道管理局に対し、右回答に係る問題提起や団体交渉の申入れがされたことは認めるに足りない。

(三) この間、原告中島らも、本件三電車区の所属長に対し、本件教育について、「募集をしないで指名したのはなぜか。」「指名した選考基準を明確化してほしい。」「過員の多いELへの転換教育の必要性があるのか。」「関西鉄道学園で実施せず、吹田機関区という現場で実施するのはなぜか。」「教育修了後、現場に戻れて電車運転士の仕事を続けられるのか。」などと質問と抗議をしたが、所属長は「上司が決めたことで詳しい説明は吹田機関区で聞いてもらうより仕方がありません。」などと回答した。

(四)(1) 国労大阪地方本部は、国鉄大阪鉄道管理局に対し、本件教育の実施を団体交渉の結論が出るまで待つよう要請し(〈証拠略〉)、同月三〇日、公労委近畿地方調停委員会に本件教育に関する斡旋を申請した(〈証拠略〉)。右斡旋は、国鉄大阪鉄道管理局が斡旋案の提示を受け入れることはできないと述べたため不調に終わった。

(2) 本件教育の受講を命じられた国労組合員五三名は、右同日、大阪地方裁判所に対し、本件教育を目的とする吹田機関区への兼務発令の効力の停止を求める仮処分を申請した。

(3) 同日夜、国鉄大阪鉄道管理局及び国労大阪地方本部が話し合った。国労大阪地方本部は、本件教育の一方的実施を中止すること、兼務解除により、受講修了者を、現職である運転士又は検査係の本来業務に戻した後も、配転をせず右業務に引き続き従事させることについての約束を求めたのに対し、国鉄大阪鉄道管理局は、本件教育は延期しないこと、本件教育修了後兼務解除され元の職場に戻ることは当然であること、兼務解除後に配転しない約束はできない旨口頭回答したが、これを文書化することは拒否した。

(五) 国労大阪地方本部は、同日夜、執行委員会において、団体交渉がないままで、本件教育が実施されることは問題であるが、受講者は、業務命令を拒否することなく、吹田機関区に行き、国労大阪地方本部から派遣される執行委員の指示に従い、吹田機関区の責任者に対し、本件教育の問題点や教育期間中の労働条件などについて釈明、解明を求めるなど適宜必要な行動を取ることなどを決定し、原告ら受講者に対し、同年七月一日午前八時に岸辺駅に集合するよう指示した。

3(本件教育の内容)

本件教育では、乗務員と検修員の二グループに分けた上、まず、机上教育を実施し、その後、実務の見習いを行うこととし、第一日目一時限目(九時から九時四五分まで)にオリエンテーション、二時限目(九時五五分から一〇時四〇分まで)に開講式を乗務員、検修員が合同で行い、以後は、各教室に別れて正規の授業が予定されていた。受講者は、前記のように事前に制服、氏名札等を携行するように指示されており、授業は、制服、氏名札を着用して受講することになっていた。

授業時間は、四五分授業を午前四時限、午後四時限とし、午前八時五〇分に出勤点呼を行った上、第八時限が午後五時〇五分に終了し、同五時二五分に退出する予定であり、教室は、検修員が一階の検修教室、乗務員が別棟二階の乗務員教室が使用されることになった。

その授業内容は、電気機関車の主回路機器、配線図、台車ブレーキ、保安装置、補助機器の解説、運動理論等が予定されていた。

4(本件教育実施の際の原告らの行動)

(一) 七月一日の原告らの行動(〈証拠・人証略〉、弁論の全趣旨)

(1) 同年七月一日午前八時、国労大阪地方本部で本件の責任者であった執行委員人見美喜男、執行委員波部鉄、同上村隆志、国労本部中央執行委員松田進などの国労役員と原告ら全員を含む約一〇〇名は、吹田機関区の最寄りの駅である岸辺駅に集合し、同駅から組合旗を先頭に隊列を組んで行進し、ハンドマイクでシュプレヒコールをしながら、午前八時四八分ころ、吹田機関区の正門に到着した。入口に置かれた看板には、「転換教育講習会々場」と記載され、受付付近には、ヘルメットを着用した本件三電車区の助役、講師ら約一五名のほか、国鉄大阪鉄道管理局の職員が待機していた。原告らは、管理者らが、受付で所属と氏名を申告し、氏名札を受け取って教室へ入るよう指示をしたにもかかわらず、これを無視して、所定の手続をしないまま、約八〇名がオリエンテーションと開講式が予定されていた検修教室へなだれ込んだ。

(2) 検修教室において、前記役員数名と共に原告中島、同大矢、田岡が中心となり、原告三浦、同中谷、同杉本、同福井、同高松らが、吹田機関区の管理者である区長(以下「区長」という。)、助役らに対し、「なぜ転換教育が必要か。」「なぜ、我々が選ばれたのか。」など大声をあげて詰め寄った。

(3) 検修教室には、原告らと共に組合役員も数名入っていたので、管理者は、再三受講者以外の者に直ちに教室から退去し、原告ら受講者に対し、着席するよう指示したが、原告らは、これを無視して口々に抗議を続けた。

そして、区長が原告ら全員を含む受講者全員に対し、「スケジュールどおり、転換教育を実施する。」と通告したが、原告ら全員は、管理者の指示を無視して、就業時間内で授業を受ける義務があるにもかかわらず、教室を出て、外の前庭に集合した。

そこで、原告中島、同大矢は、リーダーとなって、ハンドマイクを使用し、「分割民営化反対」「強制配転反対」などのシュプレヒコールを指導し、その余の原告ら全員がこれに唱和した。この際、原告木村は、「関係のない当局こそ帰れ。」と大声で抗議した。このため、付近は、喧騒を極め、周辺の建物で業務を行っていた他の職員の業務を妨害した。原告らは、管理者の再三にわたる「受講者は、教室に入りなさい。」という指示に従わず、この間、結局、午前九時一六分から一〇時〇五分ころまで、オリエンテーションと開講式の実施が不能となった。

(4) 午前一〇時〇五分ころ、原告ら全員が、検修教室に入り、着席したので、午前一一時二〇分ころまでオリエンテーションが実施された。

その後、一〇分間休憩した後、管理者である区長が、午前一一時三〇分ころから、開講式を実施しようとしたところ、原告中島が、区長に対し、転換教育が不当であるとか、食事代や乗車証等についての要求を記載したメモを読み上げ、その後、原告らが、口々に発言して、開講式を妨害した。そのため、午前中には開講式が実施できなかった。この間、管理者は本来、回答の必要はなかったが、原告らを納得させるため、可能な範囲で、右要求について回答した。

なお、午前一〇時三〇分ころ、国鉄大阪鉄道管理局が要請して出動した鉄道公安職員がマイクロバス二台で到着した。

(5) 昼の休憩後、管理者である区長が、午後一時二五分から予定されていた第五時限目に、午前中に実施できなかった開講式を検修教室で実施しようとしたところ、原告中島、同中谷、同福井、同三浦らが、座席から立ち上がり、区長を取り囲んで、「我々の質問に答えよ。」「一方的に実施するな。」などと大声で抗議したため、検修教室は騒然となり、開講式は混乱した。

区長は、このような混乱状況の中で、取りあえず、開講式の宣言をし、首席助役が関係職員の紹介を行った後、区長が大声で開講式の終了を宣言した。そして、区長らは、乗務員については、別棟の乗務員教室で、検修員については、同所で、六時限目以降の授業を行う旨指示した。

(6) 第六時限の授業開始に当たり、受講者全員が検修教室に集合していたので、講師及び管理者が「乗務員は、別棟二階の乗務員教室へ行きなさい。検修関係者は、この教室に残りなさい。」「業務命令だ。」と指示した。これに対し、新幹線総局から来た職員二名は、右指示に従って乗務員教室へ向かったが、原告ら全員は、検修教室に留まり、「一方的な開講式だ。納得できない。」などと抗議し、全く授業を受ける意思と態度を示さなかった。

続く第七時限目、八時限目も同様で、原告ら全員が検修教室に留まったままであったため、この間、講師は、授業を進めることができず、やむなく、カリキュラムの説明をした程度であった。

(7) 以上のように、原告らが、管理者の指示に従わず、本件教育を真面目に受講しようとする態度を示さないで、授業を妨害したため、オリエンテーションと開講式は、取りあえず、終了したものの、同日の第三ないし第八時限の授業は、全く実施できなかった。

(8) 八時限目終了のころ、区長及び首席助役は、原告ら全員が集合している検修教室に行って、「本日は、正当な授業と認めることができない。」「明日以降は、乗務員と検修員に別れて授業を受けること」「授業を受けるについては、制服、氏名札を着用すること」などを注意して通告した。

(9) 午後五時三六分ころ、勤務時間外であるが、原告らが構内(給水塔前)で集会をしようとしたので、区長が、再三、「施設内での集会は許可していない。直ちに退去しなさい。」と通告したが、従わず、集会を行い、田岡が、「今日は、一方的な開講式であった。我々は、開講式と受け止めていない。」などと挨拶した。また、人見執行委員は、原告ら組合員に対し、同月二日以降も、現場において、転換教育の必要性についての疑問点ないし労働条件の変更に伴う具体的取扱変更に伴う疑問点について釈明要求するように指示し、同日限り、いったん引き上げた。

(二) 七月二日の原告らの行動(〈証拠・人証略〉、弁論の全趣旨)

(1)〈1〉 原告ら以外で正規に授業を受けようとした新幹線乗務員二名は、定められた制服、氏名札を着用し、当初から指示された乗務員教室で待機していたが、原告ら全員を含むその余の者は、前日の指示に反して、乗務員教室から椅子を運び込むなどして、朝から全員検修教室に集合していた。また、原告らは、前日の指示に反して、全員、制服でなく、私服を着用し、氏名札を着用していなかった。

なお、検修教室には、 新幹線の検修員三名及び高槻電車区の検修員一名が、正規の授業を受けるべく、制服、氏名札を着用して同教室内で原告らと混じって待機していた。

講師は、始業に当たり、原告らに対し、乗務員は所定の教室へ行くよう指示したが、原告らは、従わず、呼名点呼にも全く応じなかった。

〈2〉 午前九時、乗務員教室では、新幹線乗務員二名に対して、授業が開始された。

これに対し、検修教室では、講師が、再三、乗務員は所定の教室へ行くように指示を繰り返したにもかかわらず、原告らは、全員、検修教室を動かず、「開講式が終わっていない。」「こんなところで授業が受けられるか。」「なぜ、学園で教育しないのか。」など講師に向かって口々に抗議を続け。(ママ)講師は、「授業が妨害されてできない。授業のボイコットとみなす。」と発言して、退席しようとしたところ、田岡、原告中島、同大矢らを中心に、原告杉本、同三浦、同高松、同永富、同木村、同福井ら一〇名ほどの者が講師を取り囲んで、前記同様のことを口々に述べ、退出できない状況に陥った。そこで、区長、首席助役らが検修教室に駆けつけて、「乗務員は、所定の教室へ行きなさい。授業のボイコットとみなします。」と通告し、講師を取り囲むようにして退出した。

〈3〉 原告ら全員は、教室から講師室へ押し掛け、原告永富、同木村、同福井らのリードにより、「管理者は帰れ。」など大声でシュプレヒコールを行った。

この際、田岡、原告中島、同大矢、同中谷、同三浦、同福井、同杉本、同足立、同高松、同永富、同木村、同北野らは、原告らの前面に出て、事態に備えて、吹田機関区に詰めていた管理者に対し、「あんたら、何しに来とるんや。」「管理者は帰れ。」「環境が悪い。」などと大声で抗議した。

〈4〉 第一時限目の終わり近くの午前九時三五分ころ、田岡が、原告ら全員に対し、「みんな、教室へ入ろう。」と発言したことを契機に、原告ら全員が、検修教室に戻り、二時限目には、原告らは、乗務員と検修員とに別れて、それぞれの教室へ入った。

〈5〉 以上の経緯で、原告らの妨害のため、第一時限目の授業は全く実施できなかった。

(2) 第二時限目から第四時限目の授業時間は、原告らは各教室の所定の席に着席したが、依然として、制服、氏名札を着用せず、私服のままであって、各自の机上に配付した教科書の受領印を押さず、教科書をまとめて縛ったひもも解かずに机上に放置するなど、真面目に授業を受ける態度を全く示さなかった。

(3) 昼の休憩時間中、区長が集会の中止を求める指示をし、警告をしたにもかかわらず、原告ら全員を含む全受講者は、検修教室において、集会を行った。

(4) 午後の第五時限目から第七時限目の授業も、原告らの態度は、おおむね午前中と同様であり、授業を受ける姿勢を示さないままであった。とりわけ、原告ら中、検修員が居た検修教室では、田岡は、後ろを向いて授業を露骨に拒否する態度を示し、講師が注意したが従わず、原告中谷、同三浦も、田岡に呼応して、後ろを向くなど反抗的な態度を示した。

また、乗務員教室では、原告大矢が、「開講式をしていないから、授業は受けない。自己紹介ぐらいならしてもよい。全員の自己紹介をしたいので、先生は、こっちに座ってくれ。」と述べるなど授業の進行を妨げる態度を示した。

(5) 第八時限目、講師が、各教室へ行ったところ、原告らは、教室におらず、原告ら全員は、約二〇〇メートル離れた別棟の区長室前に押し掛け、「教室が暑い。」「道路工事の騒音がやかましい。」などと言って抗議し、管理者が各教室に戻るよう指示したが、これを無視し、十数分ほど大声で抗議を続け、結局、授業が行えなかった。

この間、区長室及び隣接の事務室では、職員が執務中であったが、この喧騒状態のため業務が妨害された。

(6) 以上のような状態で、第二日目も推移し、正規の授業が行えなかったため、第八時限の終了後、管理者は、原告ら全員を含む全受講者に対し、次の警告文を各教室の掲示板に掲示するとともに、口頭でも同内容の警告を発した。

「 警告!

制服を着用するよう注意したにもかかわらず、従わなかった者について現認しているが、明日からの授業は、制服、氏名札を着用せず、教科書の受領印を押捺しない者は授業を受ける意志がないことを確認する。

六一・七・二 吹田機関区長」

これに対し、原告中島、同大矢らは、「我々は、授業を受ける意思がある。」などと口々に抗議した。

(三) 七月三日の原告らの行動(〈証拠・人証略〉、弁論の全趣旨)

(1) 第一時限目の授業前、検修教室の黒板には、「制服は着用する。」「氏名札は着用しない。」「受領印は捺印しない。」などと書かれており、原告らが、授業に対し前日と同様の態度で臨むことを示す文章が書かれていた。

(2) 第一時限目、正規の授業を受ける意思を示していた新幹線乗務員二名は、乗務員教室に居たが、原告ら全員を含む残りの受講生全員が、検修教室に入っていた。

そのため、講師が、検修教室において、「乗務員は、この教室から出て下さい。」と指示したが、誰も出て行かず、検修員の点呼に対して、誰も返事をしなかった。

なお、原告らは、黒板に書いてあったように全員制服を着用していたが、氏名札は着用していなかった。

このような状況から、講師は、正規の授業ができない状態にあると判断して、検修教室を退出した。

(3) 講師が退出した直後の午前八時五七分ころ、原告中島、同大矢、同中谷、同北野、同福井、同足立、同永富、同山本孝一、同木村らが、検修教室から出て、講師室前に集まった。区長は、右原告らに対し、教室に戻るよう指示したが、右原告らはこれに従わず、原告中島が中心となって、全員で要望があると大声を張り上げた。

それに、他の原告ら全員が次々に加わり、同所で「当局は、誠意をもって回答せよ。」「当局は、団交を開け。」などとシュプレヒコールを行った。

このような状態が、午前九時〇八分まで継続し、その後、原告らは、全員いったん教室へ戻ったが、検修教室には乗務員たる原告らが依然として残っていた。

そこで、講師は、乗務員は所定の教室へ戻るように指示したが、原告らは、これを無視したままであった。

その後、原告らは、授業を受けようとせず、検修教室に留まったり、同教室を出て、裏庭に集まったりした。

(4) 第三時限目になって、ようやく、原告らは、乗務員と検修員に別れて所定の教室へ入った。

しかし、講師は、各教室で、原告らに対し、氏名札の着用と教科書の受領印の押捺を指示したにもかかわらず、原告らがこれに従わなかったため、授業を受ける意思がないものと判断して、退室した。

(5) 第四時限目も、講師は、原告らの態度が第三時限目と同様の状態であったため、授業を受ける意思がないものとして退室した。

(6) 午後の第五時限目も、同様の状態が続いた。しかし、第六時限目、管理者は、今回の受講者六〇名中六名の者(乗務員二名、検修員四名)が、当初から制服、氏名札を着用し、受領印を押捺して正規の授業を受ける意思を示していたことから、原告らの妨害行動により、右六名の受講がいつまでも妨害され続けてはならないと考え、この六名の者に別の場所で受講させるべく移動させようとした。しかし、検修教室では、原告中谷、同杉本が、「挑発するのか。」と大声を上げ、乗務員教室でも、原告大矢、同高松、同足立、同山本孝一らが、大声を出して、当局の右措置を妨害した。

しかし、管理者は、結局、右六名の者を別の部屋へ移し、同所において授業を受けさせた。

(7) 第七、八時限目も、原告らは、乗務員と検修員に分かれてそれぞれの教室に入ったが、依然として、氏名札の着用及び教科書の受領印の押捺を拒否し、受講する意思を示さなかったので、授業を実施できなかった。

(8) その後、各教室において、退出点呼を行ったが、原告らは、全く返事をしなかった。そこで、区長は、原告ら全員に対し、「明日は、制服を着用し、定められた氏名札を着け、教材の受領印を押捺し、教材を開いて授業が出来るような条件を整えなさい。本日は、授業ができていないことを確認します。」と告げ、明日からは、正規の授業を受けるように注意、警告した。

(四) 七月四日の原告らの行動(〈証拠・人証略〉、弁論の全趣旨)

(1) 午前八時五〇分の出勤点呼の際、原告ら全員が乗務員教室に集合していたため、講師が、原告らに対し、所定の教室に戻るよう指示したが、戻らず、そのため、呼名点呼ができなかった。

(2) 第一時限目、原告らは、乗務員と検修員に分かれて、所定の教室に入っていたが、依然として氏名札を着用せず、教科書の受領印の押捺もしないで、教科書も、ヒモでくくられ配付された時のままの状態で放置され、授業を拒否している状態が歴然としていたので、各講師は、原告らに授業を受ける意思がないものと判断して、退出した。

そうした中で、原告中島は、講師室へ来て、年休を申し込む旨述べた。首席助役が、勤務時間中であるので、休憩時間に来るように指示したところ、同原告は、いったん教室に戻ったものの、以後、同原告を含む原告ら全員が、講師室へ押し掛け、年休の申込みであるなどと述べた。

区長は、原告ら全員に対し、所定の教室へ戻るよう指示したが、原告らは、第一時限目の午前九時二〇分から約二〇分間講師室前に留まり、田岡、原告中島、同大矢、同中谷、同北野、同三浦らが、区長に対し、口々に抗議を続けた。そのうち、田岡(宮原電車区所属)が「現場の助役に質問しよう。」と述べたのを契機に、原告足立、同山本孝一、同三浦、同中島、同大矢、同北野らが、次々に、原告らの右行為の現認のために来ていた原告ら所属区所の管理者などの上司に向かって、「何しに来たんだ。」「お前らが送り込んだ。」などと口々に抗議した。

(3) 第二時限目以降第七時限目まで、各教室において、原告らは、前日同様、正規に授業を受ける態度を示さなかったので、授業は実施されなかった。

(4) 第八時限目、田岡が、教室を出て講師室の前に来ると、区長に対し、「学級代表です。年休は、どうなっているのか。」と尋ねたので、区長が、「一七時〇五分に話すので、すぐに戻りなさい。」と警告したところ、田岡は、いったん教室へ戻った。しかし、間もなく、原告ら全員が教室を離れて、講師室へ押し掛け、原告大矢がリーダーとなって、「区長は年休を出せ。」などとシュプレヒコールを行い、午後四時三〇分から四〇分ころまでの間、約一〇分間抗議を続けた。

(五) 七月七日の原告らの行動(〈証拠・人証略〉、弁論の全趣旨)

(1) 原告ら全員は、制服、氏名札を着用するとともに教科書の受領印も押捺し、乗務員と検修員に分かれて、所定の教室へ入った。その際、田岡は、「我々は、条件を整えた。」などと発言していたが、騒動に備えて待機していた管理局等の管理者を見て、田岡、原告中島、同大矢、同中谷、同杉本、同三浦、同足立、同北野らは、講師室まで来て、「我々は、授業を受ける意思はあるが、管理者の監視の下では気が散って授業ができない。」などと約五分間にわたり抗議したが、区長の指示により、所定の教室に戻った。

(2) これ以後、正規の授業が行われることになったが、原告らの抗議行動、授業拒否、職場離脱などにより、約四日間のカリキュラムが行えず、教育に大きな支障が出た。

(六) 七月八日の集会と田岡の発言(〈証拠・人証略〉、弁論の全趣旨)

休憩時間中、原告らは、集会を開いたが、その中で、田岡は、「一日から四日までの四日間は、スト権スト以来の事実上のストライキをやって来た。」と原告らのこの間の行動を総括する発言をした。

5  (本件教育後の経緯)

(一) 本件教育は、大阪以東の職場を対象とする多車種教育の第一回として計画実施されたものであるが、その後も、第二回が、大阪以西の職場を対象として、昭和六一年八月一日から同月二五日まで、姫路機関区で実施され、第三回が、第一、二回の参加者を除く管内全域を対象として、同年一〇月一日から二四日まで関西鉄道学園で実施されるなど、本件三電車区以外でも実施された。

(二) 国労は、原告らに対し、本件各処分について、国労の犠牲者救援規則を適用して、救済の措置を採った。

二  (原告らの行為の処分事由該当性及び本件各処分の相当性)

1  日本国有鉄道法三一条は、国鉄の職員が、同法又は国鉄の定める業務上の規程に違反した場合、又は職務上の義務に違反し、又は義務を怠った場合、総裁は、当該職員に対し、懲戒処分としての免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる(同条一項)、停職の期間は、一月以上一年以下とする(同条二項)旨を定め、国鉄就業規則(〈証拠略〉)一〇一条は、責務を尽くさず、よって業務に支障を生じさせた場合(同条二号)、上司の命令に服従しない場合(同条三号)、ゆえなく職場を離れ又は職務に就かない場合(同条六号)、職務上の規律を乱す行為のあった場合(同条一五号)、その他著しく不都合な行為のあった場合(同条一七号)に懲戒処分に付する旨を定めている。

そして、懲戒権者は、同法に基づき、どのような処分を選択するかを決定するに当たっては、懲戒事由に当たると認められる所為の外部に表れた態様のほか、右所為の原因、動機、状況、結果等を考慮すべきことはもちろん、更に当該職員のその前後における態度、懲戒処分等の処分歴、社会的環境、選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等諸般の事情をも斟酌することができるものというべきであり、これらの諸事情を総合考慮した上で、国鉄の企業秩序の維持確保という見地から考えて相当と判断した処分を選択すべきである。そして、どの処分を選択するのが相当であるかの判断は、右のようにかなり広い範囲の事情を総合した上でなされるものであり、処分選択の具体的な基準が定められていないことを考えると、右判断については、懲戒権者の裁量が認められるものと解するのが相当である。もとより、その裁量は、恣意にわたることを得ず、当該行為との対比において、甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであってはならないが、懲戒権者の処分選択が右のような限度を超えるものとして違法性を有しない限り、それは懲戒権者の裁量の範囲内にあるものとして、その効力を否定することはできないものといわなくてはならない(最高裁昭和四九年二月二八日第一小法廷判決・民集二八巻一号六六頁)。

2(一)  これを本件についてみるのに、一の4認定のとおり、原告らは、本件教育第一日目の昭和六一年七月一日、管理者らが、受付で所属と氏名を申告するよう求めたにもかかわらず、これを無視して、所定の手続をしないまま、オリエンテーションと開講式が予定されていた検修教室へなだれ込み、同教室において、吹田機関区の管理者である区長、助役らに対し、「なぜ転換教育が必要か。」「なぜ、我々が選ばれたのか。」など大声をあげて詰め寄った後、管理者が受講者は着席するよう指示したにもかかわらず、全員教室を出て、外の前庭に集合して、ハンドマイクを使用して、シュプレヒコールを行い、騒然たる状況にした上、管理者の再三にわたる教室へ戻るようにという指示に従わず、この間、オリエンテーションと開講式の実施を不能とした上、検修教室に戻った後も、転換教育が不当であるとか、食事代や乗車証等についての要求を記載したメモを読み上げたり、立ち上がり、区長を取り囲んで、大声で抗議するなどし、その後、区長が、混乱状況の中で、開講の宣言等をして、六時限目以降乗務員は別棟の乗務員教室で、検修員は同所で授業を行う旨指示したにもかかわらず、全員が検修教室に留まって抗議を続けるなどして、同日の第三ないし第八時限の授業の実施を不能とし、第二日目の同月二日も、管理者の指示に反して、私服を着用し、氏名札を着用しないまま、朝から全員検修教室に集合し、講師が、再三にわたり、原告ら中の乗務員に対し、所定の乗務員教室へ行くよう指示したにもかかわらず、検修教室に留まり、呼名点呼にも全く応じず、同教室において、開講式が終了していない、教育環境が悪いなどと抗議を続けて、退出しようとした講師を取り囲み、講師がようやく退出すると講師室へ押し掛け、「管理者は帰れ。」など大声でシュプレヒコールを行ったり、管理者が監視をしているなどと大声で抗議を行い、所定の教室に入って着席した後も、依然として、制服、氏名札を着用せず、各自の机上に配付した教科書の受領印を押捺せず、教科書をまとめて縛ったひもも解かずに机上に放置し、後ろを向いて授業を拒否する者がいるなど、全員が授業を受ける態度を全く示さず、授業時間中に、区長室前に押し掛け、「教室が暑い。」「道路工事の騒音がやかましい。」などと言って大声で抗議を続け、結局、正規の授業の実施を不能とし、管理者から、翌日からの授業で、制服、氏名札を着用せず、教科書の受領印を押捺しない者は授業を受ける意思がないものとみなすことを確認する旨の警告を受け、第三日目の同月三日も、右警告にかかわらず、氏名札を着用せず、全員が検修教室に集合して、講師が、乗務員は所定の教室へ行くよう指示したのに従わなかったり、授業時間中に教室を出て、講師室前に集まって、要望があると大声を張り上げ、シュプレヒコールを行い、乗務員と検修員に別れて所定の教室へ入った後も、講師が、氏名札の着用と教科書の受領印の押捺を指示したにもかかわらず、これに従わず、講師が、原告らに授業を受ける意思がないものと判断して、退室し、また、管理者がその指示に従い制服、氏名札を着用し、右受領印も押捺していた六名の受講者を別室に連れ出そうとしたことに大声で抗議するなどして、結局、授業の実施を不能とし、区長から、同月二日と同様の警告を受け、第四日目である同月四日も、右警告を無視して、氏名札を着用せず、教科書の受領印を押捺しなかった上、講師の指示に反して全員が乗務員教室に留まり、呼名点呼を不能にするなどしたことがあり、結局、講師が授業を開始できないまま各教室から退出した上、授業時間中に、講師室へ押し掛け、年休の申込みであるとして、シュプレヒコールをしたり、原告らの行為の現認のために来ていた原告ら所属区所の管理者などの上司に向かって口々に抗議をするなどして、結局、同日の授業の実施も不能としたことを認めることができる。

これら一連の行為は、前記認定の経緯及び第一掲記の証拠に照らせば、本件教育の開始を実質的に妨害する目的で行われたものであり、その態様も、単なる質問や平穏な抗議とは到底いえず、管理者や講師の指示に従わずに、指定された教室に入らず、授業時間中しばしば教室を離れたり、シュプレヒコールや大声による抗議を繰り返して、騒然とした状況を発生させるなど、実力で本件教育の開始を妨害したものであり、本件教育受講を命じた業務命令や管理者の業務命令に再三違反するものである上、このような態様や、その結果、本件教育の開始が約四日間遅れ、この間、本件教育に係る国鉄の業務が全く行えなかったという重大な結果を生じたことにかんがみれば、国鉄の職場秩序を著しく乱すものであり、その責任は重大であることが明らかであるので、同法及び就業規則所定の懲戒事由に該当するものというべきである。また、原告らの一部の者が、同月七日騒動に備えて待機していた管理局の管理者らを見て、講師室まで来て、「我々は、授業を受ける意思はあるが、管理者の監視の下では気が散って授業ができない。」などと約五分間にわたり抗議した行為も、本件教育受講を命じた業務命令に違反するものであり、同法及び就業規則所定の懲戒事由に該当するものというべきである。

(二)(1)  前記認定の事実によれば、原告中島は、一の4の(一)の(1)ないし(7)の行為、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)ないし(6)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為を行ない、同大矢は、同(一)の(1)ないし(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)ないし(6)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為を行ったことが認められる。

右原告両名の行為は、本件教育を受講すべき業務命令や、本件教育実施の際の、管理者からの再三の業務命令に違反し、職務時間中に、本件教育の開始を妨害する前記判示の行為を、原告らに率先して行い、指導的な役割を果たし、その結果、本件教育の実施を約四日間不能にして、国鉄の業務を妨害し、職場秩序を著しく乱したものというべきであるので、同法所定の懲戒処分事由である職務上の義務に違反した場合に該当し、また、就業規則所定の懲戒処分事由である責務を尽くさず、よって、業務に支障を生じさせた場合(一〇一条二号)、上司の命令に服従しない場合(同条三号)、ゆえなく職場を離れ又は職務に就かない場合(同条六号)、職務上の規律を乱す行為のあった場合(同条一五号)、その他著しく不都合の行為のあった場合(同条一七号)、にも該当すると解すべきであり、右原告両名を停職六か月とする本件各処分は、同原告らの右行為との対比において、甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであるとはいえず、懲戒権者の裁量の範囲内にあるものというべきである。

(2) 前記認定の事実によれば、同中谷は、一の4の(一)の(1)ないし(3)、(5)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為を、同杉本は、同(一)の(1)ないし(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為を、同北野は、同(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉、〈3〉、(2)、(4)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為を、同三浦は、同(一)の(1)ないし(3)、(5)、(6)、(二)の(1)の〈1〉、〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(5)、(7)、(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為を、同足立は、同(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉、〈3〉、(2)、(3)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)、(五)の(1)などの行為を、同永富は、同(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(5)、(7)、(8)、(四)の(1)ないし(4)などの行為を、同木村は、同(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(5)、(7)、(8)、(四)の(1)ないし(4)などの行為を、同福井は、同(一)の(1)ないし(3)、(5)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(5)、(7)、(8)、(四)の(1)ないし(4)などの行為を、同山本孝一は、同(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉、〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)などの行為を、同高松は、同(一)の(1)、(2)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉ないし〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(8)、(四)の(1)ないし(4)などの行為をしたことが認められる。

右原告ら一〇名の行為は、本件教育を受講すべき業務命令や、本件教育実施の際の、管理者からの再三の業務命令に違反し、職務時間中に、本件教育の開始を妨害する前記判示の行為を、積極的かつ頻繁に行い、原告らの中で右行為実行の重要な役割を積極的に果たし、その結果、本件教育の実施を約四日間不能にして、国鉄の業務を妨害し、職場秩序を著しく乱したものというべきであるので、同法所定の懲戒処分事由である職務上の義務に違反した場合に該当し、(一)判示の就業規則所定の懲戒処分事由にも該当すると解すべきであり、右原告ら一〇名を停職四か月とする本件処分は、同原告らの右行為との対比において、甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであるとはいえず、懲戒権者の裁量の範囲内にあるものというべきである。

(3) 前記認定の事実によれば、その余の原告ら二九名中、原告善利を除く二八名は、一の4の(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉、〈3〉、(2)、(4)、(5)、(三)の(2)ないし(5)、(7)、(8)、(四)の(1)ないし(4)などの各行為に参加したことが認められる。

右原告ら二八名の行為は、本件教育を受講すべき業務命令や、本件教育実施の際の、管理者からの再三の業務命令に違反し、職務時間中に、本件教育の開始を妨害する前記判示の行為に四日間にわたり参加し、その結果、本件教育の実施を約四日間不能にして、国鉄の業務を妨害し、職場秩序を著しく乱したものというべきであるので、同法所定の懲戒処分事由である職務上の義務に違反した場合に該当し、(一)判示の就業規則所定の懲戒処分事由にも該当すると解すべきであり、右原告ら二八名を停職三か月とする本件処分は、同原告らの右行為との対比において、甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであるとはいえず、懲戒権者の裁量の範囲内にあるものというべきである。

(4) 前記認定の事実によれば、原告善利は、一の4の(一)の(1)、(3)、(6)、(二)の(1)の〈1〉、〈3〉、(2)、(4)、(5)の各行為に参加したことが認められ、同原告の右行為は、本件教育を受講すべき業務命令や、本件教育実施の際の、管理者からの再三の業務命令に違反し、職務時間中に、本件教育の開始を妨害する前記判示の行為に二日間にわたり参加し、その結果、本件教育の実施を約二日間不能にして、国鉄の業務を妨害し、職場秩序を著しく乱したものというべきであるので、同法所定の懲戒処分事由である職務上の義務に違反した場合に該当し、(一)判示の就業規則所定の懲戒処分事由にも該当すると解すべきであり、原告善利を停職一カ月とする本件処分は、同原告の右行為との対比において、甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであるとはいえず、懲戒権者の裁量の範囲内にあるものというべきである。

三(本件各処分に関する原告らの主張に対する判断)

1(本件教育の受講を命ずる業務命令の適法性)

(一)(1)  原告らは、本件教育受講を命ずる業務命令は、業務上の必要性、正当性が認められず、使用者としての人事権の濫用に当たり、違法無効であるので、右業務命令違反や本件教育実施に対する抗議行為を理由にしてされた本件処分は無効である旨主張し、国鉄大阪鉄道管理局内において、昭和六一年当時、EC関係の職務が業務の中心になっており、同年一一月実施のダイヤ改正でもELが減少したこと、EL関係の要員が余剰状態にあったこと、国鉄が、昭和六一年度当初、国労側に対して、説明した教育計画にも、本件教育が含まれていなかったことは前記認定のとおりである。

(2) しかし、前記認定の事実によれば、国鉄大阪鉄道管理局には、昭和六一年一一月のダイヤ改正後も、EL関係の業務に従事する機関士、乗務員が約一〇〇〇名あり、EL車両も約三〇〇存在していたので、円滑な業務遂行上、EL関係を軽視することは許されない状況にあったこと、国鉄大阪鉄道管理局内においては、EL関係のみならずEC関係においても、余剰員が生じていた上、同一運転士が一勤務中にECとELの双方を運転する勤務体制も実施されており、EC又はELの一方の運転又は検修しかできない職員に転換教育を実施し、ECとELの双方に対応できる能力を備えた職員が増加すれば、職員を弾力的に運用し、業務の効率化を図ることに役立つ状況にあったこと、本教育の内容は、ECの(ママ)運転又は検修ができない職員について、ELの運転又は検修もできるよう教育するものであることが認められ、右の事実にかんがみると、(1)判示の事実をもって、本件教育受講を命ずる業務命令が業務上の必要性、正当性が認められないとか、右業務命令の発令が人事権の濫用に当たると認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

(二)(1)  原告らは、本件教育受講を命ずる業務命令が、その実施場所を関西鉄道学園でなく、吹田機関区としている点が国鉄の就業規則に違反する違法がある旨主張する。

(2) しかし、本件教育は、国鉄就業規則一〇七条ないし一〇八条に基づいて行われる「教育訓練」中、職場内訓練としての講習会(同就業規則一〇八条、職場内教育基準規程四条)に当たる(〈証拠略〉)と解すべきところ、右訓練は、「全職員を対象として、あらゆる機会と場所を活用して行う」ことができ(同就業規則一〇七条)、「職場において」行うことができる(同就業規則一〇八条)旨定められている上、地方機関の長である大阪鉄道管理局長が、計画実施し(同規程九条)、講習対象者、講習期間、講習時間数などの詳細を決定することができるのであるから(同一〇条)、国鉄大阪鉄道管理局長が、本件教育の場所を吹田機関区と決定して本件教育を実施したことに違法は認められず、原告らの右主張は採用できない。

(三)(1)  原告らは、国鉄が、本件教育受講を命ずる業務命令に基づき、国労との間で団体交渉をせず、本件教育を実施したことは、国労の団体交渉要求を無視し、国鉄と国労との間の労働協約等に違反する違法、無効なものであるので、本件教育実施に対する抗議行為を理由にしてされた本件各処分は、無効である旨主張し、国労大阪地方本部が、同年六月二五日、国鉄大阪鉄道管理局に対し、従来の労使間の経緯からみて、団体交渉で協議すべきであり、協議が整うまで実施を中止することを求めたのに対し、国鉄大阪鉄道管理局長は、同月二八日、国労大阪地方本部に対し、本件教育は、当局が、その責任において実施するものであり、団体交渉において取り扱う事項ではないと考える旨回答したこと(前記認定の事実)、国鉄と国労は、昭和四二年一二月一五日、「国鉄の近代化、機械化及び合理化等の実施にあたっては、「その計画内容等について事前協議を行う。」(一条)、右協議の結果による労働条件に関する事項は、「団体交渉を行うこととし、意見の一致を期するようにする。」旨の協定を締結したこと(〈証拠略〉)、国鉄と国労間の昭和四六年二月一九日付け確認事項には「職員の教育、養成の計画概要については事前に説明し、組合側の意見を尊重する。」という条項があること(〈証拠略〉)、国鉄大阪鉄道管理局と国労大阪地方本部が昭和六一年二月二五日に締結した「昭和六一年三月輸送改善及び運用改正等の実施に伴う労働条件に関する協定」(〈証拠略〉)には、「実施に伴い配置転換が生ずる場合には、本人の意向を十分尊重する」旨の記載が、原告らが右協定に附属する文書確認であると主張する(証拠略)には、「本事案の実施に伴い配転が生ずる場合の取り扱いについて」として「本人の意向は十分尊重する」「必要な配転教育等は行う」旨の記載があることが認められる。

(2) そして、本件教育の実施に関する事項であっても、それが労働条件や待遇に関する事項である場合には、国鉄は、団体交渉に応じるべき義務を負うと解すべきであるが、国鉄大阪鉄道管理局は、昭和六一年六月二八日の国労大阪地方本部に対する右回答の際、具体的な労働条件に関する提起があれば、その内容により、労使間のルールに基づき取り扱う旨を文書で回答し、右団交に応ずるべき義務を負う事項については、団体交渉に応ずる旨を明らかにしたが、その後、国労大阪地方本部から右団体交渉の申し入れがなされなかったことは、前記認定のとおりであるので、本件教育の実施が国労の団体交渉要求を無視して強行した違法なものである旨の原告らの主張は、採用できない。

また、本件教育は、職員の技能向上を直接の目的とする職場教育であり、昭和四二年一二月一五日付け協定にいう「機械化及び合理化に関する計画内容等」に当たると解することはできないし、また、右協定に基づく団体交渉の対象となるのは、労働条件に関する事項であるところ、本件教育の実施に係る労働条件や待遇に関する事項については、国鉄大阪鉄道管理局が団体交渉に応ずる旨を明らかにしたが、国労大阪地方本部が、これに対して右団体交渉を申し入れなかったことは、前判示のとおりであるので、本件教育の実施が前記協定に違反する旨の原告らの主張も採用できない。

また、国鉄大阪鉄道管理局は、同月二三日、国労大阪地方本部に対し、本件教育実施に関する文書を交付した際、教育内容を説明したこと、同月二八日の回答の際、国労大阪地方本部から要求された一〇項目の質問要求について、重ねて前記の回答を文書でしたことは、前記認定のとおりであるので、本件教育の実施について、昭和四六年二月一九日付け確認事項にいう組合側への「事前説明」は尽くされたものと認められるので、本件教育の実施が右確認事項に違反する旨の原告らの主張も採用できない。

そして、本件教育受講を命ずる業務命令は、兼務発令を伴うとはいえ、職員の技能向上を直接の目的とする職場教育の受講を命ずるものである上、国鉄大阪鉄道管理局が、国労大阪地方本部及び原告らに対し、右業務命令を発する際、教育修了後、兼務を解除する旨を明らかにしており、職員の職場を恒久的に変更するものではないことに照らすと、それ自体、昭和六一年三月輸送改善及び運用改正等の実施に伴う労働条件に関する協定及び原告らがこれに附属する文書確認であると主張する(証拠略)にいう「配置転換」「配転」に当たるものと解することはできないので、本件教育の実施が、右協定及び文書確認に違反する旨の原告らの主張も採用できない。

なお、原告らは、本件教育の受講命令が過員を特定人に固定せず、循環交代方式のいわゆるローテーション方式で運用する旨の国鉄と国労間の協定にも違反する旨も主張するようであるが、右業務命令自体、職員の技能向上を直接の目的とする職場教育の受講を命ずるものである上、職員の職場を恒久的に変更したり、固定するものではないことに照らすと、本件教育の受講を命ずること自体が、過員を特定人に固定することに当たるとは認めるに足りず、原告ら主張の右協定に違反するものとも認められない。

最後に、本件全証拠を精査するも、本件教育の実施が、国鉄と国労間で締結された協定や労使慣行に違反し、違法であることを認めるに足りる証拠はなく、原告らの右主張は、いずれも、採用できない。

(四)(1)  原告らは、本件教育受講を命ずる業務命令は、右教育期間中吹田機関区に兼務発令し、兼務解除後、元の職場に復帰するのか、転勤命令を受けて他の職場へ転勤するかを明確にしていない点で、原告らの地位を著しく不安定にするものであり、人事権の濫用に当たり無効である旨主張する。

(2) しかし、国鉄大阪鉄道管理局が、国労大阪地方本部及び原告らに対し、右業務命令を発する際、教育修了後兼務を解除する旨明らかにしたことは前記認定のとおりであり、元の職場である本件三電車区と吹田機関区について兼務発令をした場合、兼務を解除したときは、当然元の職場である本件三電車区で勤務すべき地位のみが残ることは明らかである上、原告中島自身、職場における国鉄当局との交渉で、当局側から「教育が終われば、兼務がとれるので、宮原電車区に帰ってこられる。」という回答を得たことを自認する陳述書(〈証拠略〉)を作成していること、国労大阪地方本部副執行委員長古川新一作成の陳述書(〈証拠略〉)にも、同年六月三〇日、国鉄大阪鉄道管理局側が、国労大阪地方本部との折衝の際、「教育修了後は、元の職場に戻す。」と回答した旨の記載があること、原告らは、本件教育修了後、吹田機関区への兼務を解除され、元の職場に復帰したことに照らせば、右兼務発令が原告らの地位を著しく不安定にしたり、人事権の濫用に当たるということはできず、原告らの右主張は採用できない。

2(本件教育受講を命ずる業務命令が不当労働行為か否か)

(一)  原告らは、本件教育受講を命ずる業務命令が、業務上の必要性も正当性もないのに、国労組合員の雇用不安を煽り、国労の弱体化を図る目的で、国労の組合員が多く存在した本件三電車区の国労組合員である原告らを狙い、受講者を余剰人員として特定し排除する目的で行われた不当労働行為に当たり、このことは、国鉄がその分割民営化のために実施した諸施策が、同時に、これに反対する国労の弱体化を図るものであって、その実施のすべての段階で不当労働行為意思が認められる構造的不当労働行為ともいうべきものであり、右業務命令もこのような施策の一環としてされたことからも明らかであり、したがって、右業務命令違反、右業務命令に基づく本件教育実施に対する抗議行動などを理由としてされた本件処分は、無効である旨主張する。

そして、原告らは、国労組合員であり、その組合における役職は、別紙処分一覧表記載のとおりであること、同年五月から七月まで、広域異動の実施として、九州地区から、第一派七四五名、第二派二八二名が同管理局内に転入したが、その多くが、動労に所属するEL機関士であったこと、国鉄大阪鉄道管理局は、動力車乗務員を対象として、同年六月、ELからECへの転換教育を関西鉄道学園で実施したが、その受講者三〇名が、全員動労組合員であったこと、その後も右転換教育は、昭和六二年三月までの間、計六回実施され、その修了者が、本件三電車区などのEC関係の職場に配属されたことは、前記認定のとおりであり、証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨を総合すれば、国鉄は、同年七月一日には、全国一斉に人材活用センターを設置したこと、大阪鉄道管理局内では、その配属者八九七名中、国労組合員が七二一名と八〇・二パーセントを占めたこと、同年八月一日当時の国労の組織率が四九・九パーセントであったこと、原告ら本件教育受講者の多くが、本件教育修了後、国鉄時代及びJR西日本移行後、鉄道以外の業務に配属されたこと、本件教育期間中、高槻電車区において国労から運転士七〇名、検修員二〇名の集団脱退があり、国労大阪全体で、昭和六一年四月一日現在一万三五一二名いた組合員が、本件教育実施後の同年七月、一〇四〇名、八月、七六〇名、九月、六六二名の大量脱退が生じ、宮原電車区でも、同年七月二名、八月八名、九月六名、一〇月一一名、一一月一一名、一二月四名が脱退したことが認められる。

(二)  しかし、前判示のとおり、本件教育受講を命ずる業務命令は、EC及びELに関する業務で余剰人員が生じていた状況にかんがみ、職員を弾力的に運用し、業務の効率化を図るなど業務上の必要、正当性が認められること、右業務命令については、その内容が、EL関係の業務に対応できる技能を習得することにあり、期間が机上教育約二二日間、実務教育約五八日、時間も午前八時五〇分から一七時二〇分までと限定され、通勤可能な場所で実施され、教育期間修了後は、兼務発令が解除されて元の勤務する電車区に戻ることが明らかにされており、本件教育期間について、原告らが国労の組合員としての活動をするについて支障が生じたり、勤務条件などで不利益を受けたことを認めるに足りる証拠がないこと、国労大阪地方本部も、後に判示するとおり、当時、右業務命令には基本的には従わざるを得ないという方針を採っていたこと、本件教育は、大阪以東の職場を対象とする多車種教育の第一回として計画実施されたものであるが、その後も、第二回が、大阪以西の職場を対象として、昭和六一年八月一日から同月二五日まで、姫路機関区で実施され、第三回が、第一、二回の参加者を除く管内全域を対象として、同年一〇月一日から二四日まで関西鉄道学園で実施されるなど、本件三電車区以外でも実施されており、本件三電車区を狙い撃ちしたものとは認めるに足りない上、本件三電車区の国労分会執行委員長が本件教育の受講を命じられていないこと、国労から組合員が大量に脱退した事実も、証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、昭和六一年当時、国労組織内に対立が発生しており、同年七月開催の第四九回定期大会で、執行部から、国労が従来推進していた国鉄の分割民営化への反対運動の軌道修正の提案がされ、同年一〇月の第五〇回臨時大会では、執行部が、労使共同宣言締結など分割民営化を容認する方向の提案をしたが、これが否決され、同年一一月には、右方針に賛成した組合員が国労を脱退して、新組合を結成したことなどが認められ、右の経緯に照らすと、このような国労組織内の対立、混乱が、右大量脱退の直接の原因である可能性が高く、本件教育受講を命ずる業務命令又は本件教育の実施がその原因であるとは、認めるに足りないこと、広域異動は、昭和六一年度、全国で国労組合員五六一名に対して発令されている上(〈証拠略〉)、九州から国鉄大阪鉄道管理局に広域異動した者に動労など国労以外の組合員が多くなった原因としては、動労が、広域異動に賛成し、その組合員を積極的に広域異動に応じさせる方針を採っていたため、動労組合員が、広域異動に応ずる例が多かったのに対し、国労は、広域異動に反対し、国労組合員が広域異動に応じなかった例が多かったことにある可能性も否定できないことなどの点に照らすと、(一)の判示の事実によっても、右業務命令が、国労組合員の雇用不安を煽り、国労の弱体化を図るなど不当労働行為意思に基づき発させ(ママ)れたものとは認めるに足りず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

(三)  したがって、本件教育受講を命ずる業務命令が不当労働行為に当たるとは認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

(四)  以上のほか、本件教育受講を命ずる業務命令が違法、無効であると解すべき根拠はない。

3(原告らの抗議の相当性、正当性)

(一)(1)  原告らは、本件教育受講を命ずる業務命令が、違法、無効なものである上、不当労働行為に当たるものであるので、原告らが、本件教育受講の際、業務命令の就業規則上、規程上の根拠の説明を求めるのは、正当な目的に基づくものであり、原告らの求釈明行為及びこれから発生した抗議行動は、電車区区長が、右求釈明に誠実に応対しなかったり、国鉄が多数の監視員を配置したり、教育環境が不備であったため、やむなく行ったものであり、これを理由とする賃金カット時間が最長八六分、最短五分とされていることからも明らかなように、きわめて軽微なものである上、すべて言論によるものであって、方法も正当である。しかも、本件教育が同年七月一日から四日まで実施できなかったのは、同月一日は、国鉄側が管理者、鉄道公安官を動員するなどの対応をしたため、混乱が生じたものであり、同月二日から四日までは、原告らが講習室内に着席しているにもかかわらず、国鉄が、制服、氏名札の着用、教科書の受領印の押捺など本件教育実施と直接関連のないことで、講義を開始しなかったものにすぎないのであるから、本件教育の開始が約四日間遅れたのは、原告らの責任ではなく、したがって、原告らの行為は、正当な組合活動として、相当性の認められる正当なものであり、懲戒事由たり得ない旨主張する。

(2) しかし、本件教育受講を命ずる業務命令が違法無効とはいえず、不当労働行為に当たるものではないことは前判示のとおりであり、右業務命令が違法無効であることを前提とする原告らの主張は採用できない。

そのうえ、前判示のように、原告らの行為の態様は、単なる質問や平穏な抗議とは到底いえず、管理者や講師の指示に従わずに、指定された教室に入らず、授業時間中しばしば教室を離れたり、シュプレヒコールや大声で抗議を繰り返して、騒然とした状況を発生させるなど、実力で本件教育の開始を妨害したものであって、管理者が受講の際に命じた氏名札の着用、教科書の受領印の押捺、制服の着用にもあえて従わずに、受講を拒否する姿勢を表明していたのであるから、本件教育受講を命ずる業務命令及び管理者の再三の業務命令に違反し、職場秩序を著しく害するものであり、原告らの右行動が方法において相当かつ正当なものであり、懲戒処分たり得ないとする原告らの主張も採用できない。

なお、原告らの行為が職場秩序を著しく害するものであるという事実は、原告らに対する賃金カットが短時間であることにより左右されるものではない。

そして、前記認定の経緯に照らせば、同月一日から四日まで本件教育開始が遅れた原因は、原告らの右行動によることが明らかであり、当局側が管理者らを待機させたことを考慮しても、同月一日に本件教育が実施できなかったのは、原告らの前記認定の行為が原因であることが明らかであり、同月二日から四日についても、原告らの右行動、態度から、原告らに授業を受ける意思がないものとして、本件教育の実施が困難であるとした管理者の措置もやむを得ないものであったものと認められ、本件教育の開始が遅れた責任が国鉄側にあり、原告らの行為が懲戒事由たり得ない旨の原告らの主張も採用できない。

(二)(1)  原告らは、原告らの右行動は、国労大阪地方本部の方針に基づき、その執行委員の現地指導に基づいて行われた正当な組合活動であるので、懲戒処分の対象にならない旨主張する。

(2) しかし、原告らの前記の行動は、前判示のように、本件教育受講を命ずる業務命令及び管理者の再三の業務命令に違反し、職場秩序を著しく害するものであって、方法において相当かつ正当なものとは到底いえず、右組合の指導に基づく行動であるとしても、懲戒処分の対象に当たることは明らかである。

そのうえ、当時の国労大阪地方本部執行委員波部鉄は、国労大阪地方本部は、基本的に業務命令に従い全員が本件教育を受講するが、幾つかの問題点については、現地での釈明を求めるとともに、国労大阪地方本部が当局側に団体交渉を申し入れるという方針を採っていたこと、業務命令には基本的に従うということで原告ら各自に電話連絡したこと、同月一日は、責任者である人見執行委員を含めて国労大阪地方本部執行委員四名が現地に行ったが、二日目以降は、同執行委員は、国労大阪地方本部で待機し、他の執行委員一名が現地に行った旨証言すること、原告らは、国労大阪地方本部が、本件教育について、受講者の元の職場への復帰等について吹田機関区で説明を求めることは決めたが、納得の行く説明があるまで受講を拒否する旨を決定したことはない旨主張していること(〈証拠略〉)、本件教育受講を命ずる業務命令を受けていない執行委員は、本来、教室内に入ることができず、教室内などで当局側の行動に対応して、原告らが具体的にいかなる態様の行動に出るかを個別的に指導することは、困難であること及び前記判示の原告らの行動の態様を総合すると、国労大阪地方本部は、原告らが、基本的には、業務命令に従い、本件教育を受講するが、現地において、問題点の釈明を求めるとの方針を採った上、実際の現場において、釈明を求める行動として具体的にいかなる態様の行動に出るかは、国労大阪地方本部執行委員多数が現地へ赴いて、その行動の全般を直接指導をした同月一日の行動や同月四日の年休請求を除き、前記の方針を遵守することを前提に原告ら現地の受講者に相当程度委ねたものと認められる。

そして、原告らの前判示の行動は、単なる質問や平穏な抗議とは到底いえず、管理者や講師の再三の指示に従わずに、指定された教室に入らず、授業時間中しばしば教室を離れたり、シュプレヒコールや大声で抗議を繰り返して、騒然とした状況を発生させるなど、実力で本件教育の開始を妨害したものであって、管理者が受講の際に命じた氏名札の着用、教科書の受領印の押捺、制服の着用にもあえて従わずに、受講を拒否する姿勢を表明するなど、本件教育受講を命ずる業務命令及び管理者の再三の業務命令に明らかに違反するものであり、業務命令に基本的に従い本件教育を受講するという国労大阪地方本部の方針からも逸脱するものであると認められるから、原告らの右行為は、懲戒処分の対象とすることが許されないような適法な組合活動であると認めることはできない。

もっとも、国労が、原告らに対し、犠牲者救援規則を適用して救済する措置を採ったことは、前判示のとおりであるが、右事実も、前判示の点に対比すると、原告らの右主張事実を認めるに足りるものではなく、ほかに、これを認めるに足りる証拠はない。

(3) したがって、原告らの右主張も採用できない。

4  (処分権濫用の有無)

(一) 原告らは、本件各処分が、前例のない苛酷な処分である上、国鉄民営化を翌六二年四月に控え、国鉄職員がJR西日本などの承継法人に雇用される者と被告とに選別されることが予想される時期である昭和六一年一〇月一日にされたものである上、原告らに著しい経済上の不利益を与えるものであり、しかも、原告の抗議行動は、やむにやまれぬ正当かつ相当なものであり、その方法も相当なもので、本件教育も三日間延長されただけで終了しており、実害は生じていないのであるから、著しく重きに失し、処分権を濫用するものであり、無効である旨主張する。

そして、昭和五二年秋闘から昭和五三年春闘についての一括処分では、四月一三日集札スト(二時間)、四月一八日施設等スト(半日)、四月二五日から二六日主要線区全面ストップのスト(二日)に対し、昭和五三年六月三日に通告された一括処分では、全国で一八一名の停職処分を受けた者が出たが、国労大阪地方本部において停職処分を受けたのは、大阪地方本部及び支部の専従役員のみであったこと、昭和五六年一〇月二一日国際反戦デー闘争から昭和五七年春闘までの七回の闘争について昭和五七年九月一七日に通告された一括処分では、全国で二一名が停職処分を受けたが、国労大阪地方本部で停職処分を受けた者は、いずれも、大阪地方本部及び支部の専従役員のみであったこと、国労大阪地方本部の三一分会二七六〇名が参加した休職、派遣、出向の合理化三項目反対の二時間ストに対して、昭和五九年八月一〇日に通告された処分では、大阪地方本部及び支部三役が減給処分を受けたのみで、他は戒告であったこと、国労大阪地方本部の一〇六分会五五一五名が参加した国鉄再建管理委員会答申抗議の二九から六〇分ストに対して、昭和六〇年一〇月五日に通告された処分では、減給が最高の処分であったことは、当事者間に争いがなく、また、停職者は、停職期間中、俸給の三分の一を受けるなどの経済上の不利益も受けることが認められる(日本国有鉄道法三一条三項)。

(二) しかし、原告らの右行為は、本件教育の開始を実質的に妨害する目的で行われたものであり、その態様も、単なる質問や平穏な抗議とは到底いえず、管理者や講師の指示に従わずに、指定された教室に入らず、授業時間中しばしば教室を離れたり、シュプレヒコールや大声による抗議を繰り返して、騒然とした状況を発生させるなど、実力で本件教育の開始を妨害したものであり、本件教育の受講を命じた業務命令や管理者の業務命令に再三違反するものである上、このような態様や、その結果、本件教育の開始が約四日間遅れ、この間、本件教育に係る国鉄の業務が全く行えなかったという重大な結果を生じたことにかんがみれば、国鉄の職場秩序を著しく乱すものであり、その責任は重大であると認められ、日本国有鉄道法三一条所定の懲戒免職、一月以上一年以下の停職、減給又は戒告の処分の中で本件各処分を選択したことが、原告らの右行為との対比において、甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであるとはいえないことは、前判示のとおりであること、国労大阪地方本部で本件の責任者であった人見執行委員は、当時、国鉄職員たる身分がなく、処分が不可能であったこと、(一)の事案は、いずれも、公共企業体等労働関係調整法に違反する争議行為に対する処分であり、国労の組織指令に基づき各組合員の個人的な意思にかかわりなく実施されたものであるのに対し、本件の場合、前判示のように、原告らが採るべき行動は、その具体的内容、態様について、国労大阪地方本部から、本件教育を受講する原告らに対し、相当程度委ねられていたところ、原告らは、その判断の下に、実力で本件教育の開始を妨害し、本件教育の受講を命じた業務命令や管理者の業務命令に再三違反し、職場秩序に著しく反する行動に出たものであり、(一)の事案に比較すると、原告ら個人の意思と行動がより強く反映し、個人の責任がより重く問われてもやむを得ない事案であって、(一)の事案とは、事案を異にすること、原告らの右行動が、正当かつ相当なものであるとか、その方法が相当あ(ママ)るとは到底いえないことは、前判示のとおりであること、本件各処分がなされた時期も、原告らの行動の約三か月後であって、格別、原告らに不利な時期が選択されたとは認めるに足りないことなどの点に照らすと、(一)の事実をもって、本件各処分が重きに失するとか、処分権の濫用に当たるとは認めることはできず、ほかに本件各処分が処分権の濫用に当たることを認めるに足りる証拠はない。

(三) また、原告らは、原告ら各自の行為の間に、本件各処分の内容の差異を生じさせるに足りる差異もない旨も主張するようであるが、二の4判示のように、前記認定の原告らの各懲戒事由該当行為の態様に照らせば、原告らについて本件各処分を選択したことが、原告らの右行為との対比において、甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであるとはいえないから、原告の右主張も採用できない。

(四) ほかに本件各処分が処分権を濫用して行われたと認めるべき根拠はない。

5  (本件各処分が不当労働行為に当たるか否か)

(一) 原告らは、国鉄が、国鉄分割民営化の全段階において、国労組合員に対して国労に所属していては、自分の雇用が守られないという雇用不安を煽り、国労からの脱退と幹部不信を生じさせる施策を実施していたところ、本件各処分は、違法無効な本件教育受講を命ずる業務命令に対する原告らの正当な説明要求行為や抗議活動に対して行ったものであり、処分自体極めて苛酷なものである上、原告中島、同大矢について、国鉄が、本件各処分を理由に本件名簿へ登載せず、右原告両名がJR西日本に採用されないという結果をもたらした上、昭和六一年一〇月という翌年四月に国鉄民営化を控えた時期にされており、国労組合員のJR西日本などの承継法人に採用されないことに対する不安を助長して見せしめとし、原告らの国労組合員としての活動に報復することを目的とした不当労働行為意思に基づくもので不当労働行為に当たり、無効である旨主張し、原告らが、国労組合員であり、別紙処分一覧表記載の役職にあったこと、国鉄が、原告中島、同大矢を本件各処分が理由であるとして、本件名簿に登載せず、右原告両名がJR西日本に採用されなかったことは、前記認定のとおりである。

(二) しかし、前判示のとおり、原告らの右行為が、本件教育の開始を実質的に妨害する目的で行われたものであり、その態様も、単なる質問や平穏な抗議とは到底いえず、管理者や講師の指示に従わず、指定された教室に入らず、授業時間中しばしば教室を離れたり、シュプレヒコールや大声による抗議を繰り返して、騒然とした状況を発生させるなど、実力で本件教育の開始を妨害したものであり、本件教育の受講を命じた業務命令や管理者の業務命令に再三違反するものである上、このような態様や、その結果、本件教育の開始が約四日間遅れ、この間、本件教育に係る国鉄の業務が全く行えなかったという重大な結果を生じたことにかんがみれば、国鉄の職場秩序を著しく乱すものであって、その責任は重大であり、日本国有鉄道法三一条所定の懲戒免職、一月以上一年以下の停職、減給又は戒告の処分の中で本件各処分を選択したことが、原告らの右行為との対比において、甚だしく均衡を失する等社会通念に照らして合理性を欠くものであるとはいえず、本件各処分が重きに失するとはいえないこと、本件教育受講を命ずる業務命令が違法又は無効とはいえず、原告らの行為が正当な説明要求行為や抗議活動に当たるとは到底いえないこと、本件各処分がなされた時期も、原告らの行動の約三か月後であって、格別、原告らに不利な時期が選択されたとは認めるに足りないこと、(人証略)の証言に照らしても、本件各処分当時、JR西日本などの承継法人に提出する職員採用候補者名簿の登載基準が具体的に決定されていたものとは認めるに足りず、原告中島、同大矢について、右不採用を目的に処分内容が選択されたとは認められないことなどの点に照らすと、本件各処分は、原告らの行為態様に応じて選択されたものと認められ、処分事由とされた原告らの各行為と対比して、社会通念に照らして合理性を欠くものとはいえず、原告らの国労における役職の軽重や組合活動歴の有無に左右されたものとは、認めるに足りないのであるから、(一)判示の事実及び原告らが主張する国鉄の分割民営化の各段階における国鉄の諸施策の実施状況を考慮したとしても、国鉄が、原告らが国労組合員であることを理由として、本件各処分をしたり、より重い処分を選択したとは認めることはできず、したがって、本件各処分が不当労働行為に当たることを認めるに足りない。

(三) 以上のほか、本件各処分が不当労働行為に当たると解すべき根拠はない。

四  (本件各処分の効力)

以上によれば、本件各処分が違法、無効であるとは認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はないのであるから、本件各処分が違法、無効であることを前提とする原告らの被告に対する本件各処分無効確認請求、停職期間中の差額賃金相当額及び慰謝料請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

五  (原告中島、同大矢の損害賠償請求)

最後に、原告中島、同大矢は、国鉄の本件名簿不登載行為が、右原告両名に対する不法行為に当たる旨主張するので判断する。

1(一)  改革法二三条は、承継法人の設立委員は、国鉄を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び採用条件の基準を提示して、職員の募集を行い(同条一項)、国鉄は、右労働条件及び採用の基準が提示されたときは、承継法人の職員となることに関する国鉄職員の意思を確認し、承継法人別に承継法人の職員となる意思を表示した者のうちから、当該承継法人に係る採用基準に従って職員となるべき者を選定し、その者を記載した本件名簿を作成して設立委員に提出し(同条二項)、右の名簿に記載された国鉄職員のうち、設立委員から採用の通知を受けた者で、改革法附則二条の規定の施行の際(昭和六二年四月一日、同法附則一条)、現に国鉄職員である者は、承継法人の成立の時において、当該承継法人の職員として、採用される(同条三項)。

(二)  設立委員会は、JR西日本について、同条の定める採用基準として、「日本国有鉄道在職中の勤務成績からみて、当社の業務にふさわしい者であること」と定め、国鉄は、右基準を、更に具体化して、「昭和五八年四月一日から同六二年三月三一日までの間に停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けたことがない者」という基準(以下「本件基準」という。)を設けた上、右原告両名が本件各処分により停職六か月の処分を受けたことが、本件基準に当たらないとして、本件名簿に右原告両名を登載せず、設立委員は、右原告両名に採用の通知をせず、右原告両名がJR西日本に採用されなかったことは、前判示のとおりである。

2  右原告両名は、国鉄が本件名簿不登載行為の理由であるとする本件各処分が、違法無効である以上、右行為が当然に違法であり、不法行為に当たる旨主張するが、本件各処分が違法無効でなく、適法であることは、前判示のとおりであるので、右原告両名の主張は、その余の点を判断するまでもなく、採用できない。

3(一)  次に、右原告両名は、本件基準が客観的な基準とはいえず、国鉄は、本件基準を恣意的に運用しており、右両名を本件名簿に不登載とした理由は、右基準に従ったものではなく、国鉄は、その分割民営化の全過程で、これに反対する国労の弱体化を図る不当労働行為意思に基づく施策を実行しており、本件名簿不登載行為も、同様に、右原告両名を、その国労組合員としての組合活動を理由に排除する目的で行ったものであるなどとして、右行為が不当労働行為に当たり、不法行為に該当する旨主張する。

前判示の事実に証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本州及び四国において、国鉄職員で、承継法人たる旅客会社への採用を希望しながら、停職六か月などの処分を受けたことを理由に採用されなかった者の総数は、七六名であり、その所属組合は、国労五八名、鉄労三名、鉄産労三名、千葉動労一二名であったこと、国鉄は、本件基準の期間内に停職六か月以上の処分を受けた者や、二回以上停職処分を受けた者についても、処分後、右名簿作成までに、勤務成績が良くなった者については、諸般の事情を考慮して、例外的に職員採用候補者名簿に登載する方針を採ったことを明らかにしており、停職六か月以上の処分を受けながら、承継法人である旅客会社の右名簿に登載され、採用された者は、JR東日本六名、JR西日本一名、JR東海一名の計八名あったこと、右採用者の内訳は、〈1〉国労組合員(ただし、JR西日本移行前に退職)で、勤務中に同僚との間の暴力事件を起こしたという理由により、昭和五九年六月ころ、停職六か月(ただし、相手方が戒告)の処分を受けた者、〈2〉鉄労組合員(仙台鉄道管理局、JR東日本採用)で、売春防止法、宮城県青少年保護条例違反で逮捕されたという理由により、昭和五九年四月ころ、停職六か月の処分を受けた者、〈3〉国労組合員(同)で、酒気帯び出勤をしたという理由により、昭和六一年二月停職六か月の処分を受けたが、処分後、国労を脱退して鉄労に加入した者、〈4〉鉄労組合員(同)で、酒気帯び出勤をしたという理由により、同年五月、停職六か月の処分を受けた者、〈5〉国労組合員(長野鉄道管理局、JR東日本採用)で、社外での不祥事を理由に停職六か月の処分を受けた者、〈6〉国労組合員(秋田鉄道管理局、JR東日本採用)で、勤務中に飲酒をしたという理由により、昭和六〇年一月、停職七か月の処分を受けた者、〈7〉国労組合員(東京南鉄道管理局、JR東日本採用。JR東日本移行後分会青年部役員)で、職員割引証の不正使用をしたという理由により、昭和五九年、停職六か月の処分を受けた者、〈8〉国労組合員(新幹線総局、JR東海採用。ただし、JR移行前に退職)で、酒気帯び出勤をしたという理由により、昭和六一年ころ、停職六か月の処分を受けた者があったこと、右のほか、知人の定期乗車券発行に不当に便宜を図ったことにより、昭和五九年一二月停職六か月の処分を受けた者(北海道総局)が、昭和六二年八月JR東日本の追加募集で採用された例のあることが認められる。

なお、原告らは、以上のほか、本件基準に定める期間内に、停職六か月以上又は停職二回以上の処分を受けた者で、JR東日本に採用された者三名があると主張するが、その氏名、処分内容、処分時期も明らかでなく、右主張事実は、認めるに足りない。

(二)  しかし、設立委員が、改革法二三条一項に基づきJR西日本の職員採用の基準を、「日本国有鉄道在職中の勤務成績からみて、当社の業務にふさわしい者であること」と提示したことを受けて、国鉄が、これを具体化するものとして、本件基準を定めたことは、前判示のとおりであるところ、本件基準の内容は、設立委員の提示した基準に反するものではなく、これを具体化する客観的な基準として合理的なものであると認められる上、その内容も、改革法二三条やその趣旨に違反したり、不当労働行為を容認したものであるとも認められないのであるから、国鉄による本件基準の設定自体に違法な点や不合理な点は認められない。

そして、本件各処分が適法なものであることは前判示のとおりであり、本件基準を適用すれば、国鉄は、停職六か月の本件各処分を受けた右原告両名を、本件名簿に登載すべきでないことは明らかであり、したがって、本件名簿不登載行為が違法とはいえず、その原因が右原告両名の国鉄(ママ)組合員としての組合活動が原因であると認めることはできない。

(三)  もっとも、国鉄が、本件基準の運用の際、本件基準の定める期間内に六か月以上又は二回以上停職処分を受けた者であっても、処分後、右名簿作成までに勤務成績が良くなった者については、諸般の事情を考慮して、例外的に右名簿に登載する方針を採用していたことは前判示のとおりであるが、右の方針自体、改革法二三条の趣旨や設立委員の定めた前記の採用基準に反するものではなく、違法であるとか不合理であるとは認められないところ、右原告両名については、昭和六二年四月まで停職期間が継続しており、処分後本件名簿が作成された昭和六二年二月までに勤務成績が良くなったなど例外的処理をすべき事由の存在も認められない上、右原告両名に対する本件各処分が適法なものであって、苛酷とはいえず、前判示の本件各処分時の諸般の事情を考慮しても、このような例外的扱いをすべき事由があるとは認め難いこと、例外的措置として、右名簿に登載されたことが認められる前判示の八名中少なくとも四名が採用時国労の組合員であり、例外的措置の運用について、国労の組合員のみを不利益に扱ったとは認めるに足りない上、右の者について処分の対象とされた行為の具体的態様、右行為の原因、動機、状況、結果、当該職員のその前後における態度、処分歴、社会的環境などその詳細が明らかでないのであるから、右原告両名の行為が、右八名の行為に比較して軽微であるとは認めるに足りないことなどの点に照らすと、(一)の事実をもって、国鉄が、右基準を恣意的に運用したり、右原告両名の組合活動を理由に例外的な運用をせず、右名簿不登載としたなど右原告両名の主張事実も認めることはできず、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。

(四)  以上のほか、本件名簿不登載行為が、不当労働行為に当たり、また、不法行為に当たることを認めるべき根拠はない。

4  したがって、国鉄による本件名簿不登載行為が不法行為に当たることを前提とする右原告両名の本件損害賠償請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

六(結語)

以上によれば、原告らの請求は、いずれも理由がないので棄却する。

(裁判長裁判官 松山恒昭 裁判官大竹たかし、同髙木陽一は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 松山恒昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例